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KREVA:ラップで日本語の可能性を探究
2024/07/12

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インタビュアー川原 繁人(かわはら しげと)
慶應義塾大学言語文化研究所教授
ラップを始めたきっかけ
──KREVAさんは環境情報学部在学中にラッパーとしてデビューされ、25年以上にわたり活動を続けておられます。ラップを始めたきっかけは何だったのでしょうか。
KREVA 中学2年生の頃のダンスブームがきっかけです。ボビー・ブラウンというアーティストの映像を見て、その音楽を「かっこいい」と感じ興味を持ち始めました。最初はダンスから入り、友だちがDJ機材を揃えたのを機にラップを始めました。
──最初から日本語でラップをしていたのでしょうか。
KREVA そうですね。自分たちがラップを始めた時には、ライムスターなど日本語ラップの先輩格のグループがすでにレコードをリリースしていました。
──私は言語学的な側面からラップの韻を分析している関係で、以前ライムスターのMummy-Dさんと対談したのですが、その際に日本語ラップを世代分けしてみました。いとうせいこうさんらが第1世代、ライムスターたちを第2世代とすると、KREVAさんらは第3世代となりますね。
KREVA そうなりますね。ライムスターのメンバーは皆早稲田出身で、彼らと最初に会ったのは慶應に在学していた頃です。在学中に「バイ・ファー・ザ・ドーペスト」というグループを結成し、1997年にレコードデビューしました。その頃から即興(フリースタイル)でラップをするようになり、当時、仲間内ではフリースタイルが上手いヤツとして評判になっていたようです。
──フリースタイルの名手としてKREVAさんの名が広まったのは、1997年に始まったヒップホップの祭典「B -BOY PARK」ですね。ラッパー同士がフリースタイルを競い合うMCバトルの初代チャンピオンとなり、その後3連覇を果たしたことは語り草になっています。
KREVA B-BOY PARKで最初のMCバトルが開催されたのが2年後の1999年でした。それまではまだヒップホップ・カルチャーの中でレコード会社と契約することがめずらしく、ラッパーとして頭角を現すにはフリースタイルで存在感を示すのが有効でした。そこでクラブのイベントに出かけては、飛び入りでパフォーマンスできる時間帯にマイクを握っていました。
──いわゆる「オープンマイク」と呼ばれる時間帯ですね。
KREVA そうです。イベントでは必ずオープンマイクの時間があって、「ラッパーだったらパフォーマンスしないと負け」みたいな熱気がありました。そういう場所でラップの腕を鍛えていたのです。1999年にフリースタイルの大会があると聞いた時にはやっと大きな舞台でパフォーマンスができると思いました。
言葉の引出しを半開きにしておく
──ラップには「韻を踏む」上手さを競う側面があります。KREVAさんのラップは韻がわかりやすく、かつ言葉選びとしても意外性があって面白い。こうしたスタイルはどのように作り上げていったのでしょう。
KREVA わかりやすく韻を踏むだけでなく、言葉の並び替えなどで歌詞を展開する面白さも追究しています。例えば、「クレバ」を「バレク」にひっくり返して新しい言葉をつくり出し、そこから別の韻を踏むといったように。こういう言葉の実験を、夜な夜なクラブでの“草バトル”で試していました。
──あらかじめ用意したリリック(歌詞)を使うのではなく、即興で韻を踏む技術は簡単ではないと思います。KREVAさんは、前もって歌詞に織り込めないような対戦相手の服装などの情報を瞬時にラップに採り入れ、即興だと暗示しています。こういうアイデアも面白いですね。
KREVA 相手の容姿のようなその場の状況を即興で採り入れたのは、対戦相手が事前に書いた歌詞カードを持ち込んだことからです。それをルール違反だと言うよりも、即興だとわかるパフォーマンスで負かしたほうが会場も盛り上がるだろうと思ったのです。
──勝負のためというよりも、見せる(魅せる)ためのパフォーマンスだったのですね。
KREVA そうです。フリースタイルの大会でも、エンターテインメントとして盛り上げるために全身迷彩服で出演したりしてました。闘うことよりも楽しむことが第一にありました。
──フリースタイルの歌詞は一度紙に書き出したものを頭に入れてラップするのでしょうか。それとも完全に頭の中で組み立てるのですか?
KREVA フリースタイルは本当に即興です。頭の中で瞬時に韻を組み立て、リズムに乗せて出す感じ。『千と千尋の神隠し』の中で、長い腕を何本も持った「釜爺」というキャラクターがたくさんの引出しから薬草を取り出すシーンがありますよね。あんな具合に言葉の引出しをすべて半開きにしておくトレーニングをするのです。
言葉にたくさん触れ、言葉の引出しの位置を何となく把握しておくと、数珠つなぎに引出しが開くようになります。そういうスキルはある程度トレーニングで身に付きます。
──KREVAさんのラップには天才肌だと思わせるところがありますが、トレーニングの賜物なのですね。
KREVA 「天才には2つのタイプがある」とよく言われますよね。本当の天才と、努力を努力と思わないタイプの天才。天才かどうかはさておき自分は後者です。ラップの練習を努力とは思ったことはないです。湘南藤沢キャンパス(SFC)時代、通学に片道2時間半かけていたのですが、電車の中でも中吊り広告を見ながら韻を踏む練習をしたりしていました。
大学受験でも、すんなり慶應に入れる人もいれば、徹底的に勉強する人もいますよね。自分の場合は随分勉強しましたが、それは苦ではなかったんです。やりたいことや目標に至るまでのステップをつらいと感じない天才的鈍感タイプなのかもしれません。
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KREVA(クレバ)
ラッパー、アーティスト
塾員(2000環)。1997年のデビュー以来、日本のヒップホップを牽引。6月18日ソロデビュー20周年を迎え様々なアクションが予定されている。