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草野 絵美:アートの世界で最新テクノロジーの可能性を探求
2024/04/15
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インタビュアー荒木 夏実(あらき なつみ)
東京藝術大学美術学部先端芸術表現科准教授・塾員
面白いクリエイターが集まる場所
──草野さんには私が教える東京藝術大学(藝大)にもデザイン科の非常勤講師として来ていただいています。どのようなことを教えているのでしょうか。
草野 藝大には2019年から呼んでいただいており、AIやNFT(Non-Fungible Token)アートについて講義をしています。藝大の学生は吸収が早いのですが、まだAIへの偏見を持つ人も多く、(生成AIによる描画アプリの)Stable Diffusion やMidjourney に触ったことがある人は10%に満たないほどでした。ですが、AIの専門家を呼んでディスカッションをすると偏見が取り払われ、皆すぐに使いこなせるようになりました。
──草野さんはNFTアートの作品を発表されています。どのような可能性を感じておられるのでしょうか。
草野 表現する場所として今、面白いと感じる人が最も集まるコミュニティの1つがNFTアートの世界です。NFTにおいてイノベイティブな点は何かという時、よく「それが本物であることを証明できる」と技術ばかり先行して語られますが、それでは皆さんにピンとこないと思うんです。
本質的に何がイノベイティブかというと、ブロックチェーンの技術にアーティストを応援するという大義名分がこの上なく相性が良かったこと、それによって新たな市場と文化が生まれていることだと思います。それが最も面白いところ。
インターネット黎明期やSNSが登場した頃のような“世の中変わるかも”という感じがあります。イノベイター気質の人が世界中から集まり、この技術をどう生かそうかと新たな実験が始まっています。
NFTアートとひと言で言っても、とても多面的なものです。クラウドファンディングのような使い方もあれば、デジタルコミュニティのチケットにもなり、ファッションアイテムのような側面もある。皆がいろいろな文化を持ち寄って実験しています。
──それは学生にもぜひトライしてもらいたいです。
草野 NFTアートというと高額なものばかりが注目を集めますが、月に1作品など小規模にアート作品をブロックチェーン上にのせ、小さなコレクターベースで生計を立てているアーティストはたくさんいます。彼ら彼女らは、陶芸家のように毎日コツコツと作品をつくり、時にはリアルで展覧会も行い、経済的にも自立できています。
──藝大には経済的に自立するための可能性を教える場がなく、草野さんの周りのリアルな状況とギャップを感じます。
草野 クリスティーズやサザビーズもNFTアートに力を入れていますし、「ジェネラティブアート」と呼ばれる、コードで書いた作品をブロックチェーン上で発表すること自体を作家のコンセプトとして捉えられることも増えました。美術館のキュレーターとのネットワークも生まれています。AIアートやNFTアートはアートじゃないと言われることもありますが、美術史ではそういうものが残ってきました。アートには時代に応じて意味を拡張していく性質があると思います。私にはコンテンポラリーアートの先端にいるという自負があります。
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三田評論のコーナー |
草野 絵美(くさの えみ)
アーティスト
塾員(2015 環)。生成AI などの最新テクノロジーを用いたNFTアートや写真作品を発表。多くのコラボレーションも展開。