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根本美緒:気象予報士から環境問題の研究・発信の道へ

2022/11/15

若い世代の価値観に触れて

──環境教育を通して若い人たちに何を一番伝えたいですか。

根本 若い子たちは私たち以上に危機感を持っているように思います。このままだと、自分たちの世代がどうなってしまうのだろうかと不安に感じているでしょう。今はオンラインでもつながれる時代なので、私は世界中の子どもたちがつながりをつくったり、同じ意識を持った人たちが輪を広げていき、会話を通して価値観を共有できるといいなと思っています。子どもたちにはとにかく日本の価値観に固執しないでほしいと言いたいです。世界を見て、まだ気付いていないことをしっかり吸収してほしい。

その中で自分たちに何ができるか。私も自分の子どもには起業したら? と言っています。やりたいことがあれば自分で何かやってみなよと。問題を解決して人の役に立てる何かを生み出すことはビジネスになるし、自分の力にもなります。そういう話をすると、うちの子どもたちも環境問題に目がいくようです。長女は貧困問題に関心があり、貧しい子たちを助ける仕事をしたいと言っています。

──社会課題を解決する機運は年々高まっていますね。大学院にいるとさまざまな刺激を受けるのではないですか。

根本 私の所属するゼミの学生は多くが中国からの留学生ですが、2人の日本人女性はともに起業し、地球環境に関わるビジネスを展開しています。2人とも結婚し、子どもがいますが、とても熱心です。環境問題に目を向け、何かをやってやろうという意識の高さを感じます。

──根本さんも起業される予定はないのでしょうか。

根本 今は子育てが忙しく、そこまで考えられないのですが、次女が起業に興味をもっているので、彼女が高校生になるころには一緒に何かやりたいなと考えています。私は今、上智の非常勤講師として授業を受け持っており、まずはそういう場所で発信することから始めたいと思っています。いずれ慶應に恩返しできるとよいのですが、そのためにはもう少し自分を磨いて自信をつけなければなりませんね。

慶應の一貫教育で培ったもの

──根本さんは幼稚舎から慶應で学ばれて、一貫教育校でのスクールライフはどのようなものでしたか?

根本 慶應義塾の先生方が自分を得意分野へ導いてくださって今があります。思い出深いエピソードは幼稚舎時代、私はバスケ部に入りたかったのですが、担任の矢田部浅次郎先生に君は演劇部だ! と言われ、演劇部に入りました。その時は、え? と思いましたが、それが最初の私の発声練習の場でした。放送委員も担当し、文集には将来はアナウンサーか、とまで書いてくださっていました。

音楽の梅野三四郎先生の勧めで合唱団にも入り、その後大学卒業までは歌の仕事をしていました。今、人前で話をする仕事に就いているのは、幼稚舎で体験したことが大きいのかもしれませんね。

中等部時代は先生方がゆっくりと自分の話を聞いてくださったという印象があります。また女子高には互いの個性を尊重し合う空気があったのを強く覚えています。例えば、同級生にいわゆる文学少女の子がいたのですが、彼女は先生ときちんと議論ができた。それを羨望の眼差しで見て自分には何ができるだろうと考えるきっかけを与えてくれる、そんな場所でした。

そして大学時代にお会いしたのが島田先生です。島田先生の「人生一回きりだ」という言葉は、福澤諭吉由来のとことんやってみるという教育ですよね。慶應がもつ徹底的に物事を突き詰めるカルチャーがあったからこそ今の自分があると思います。

──形式や型に囚われないことですよね。

根本 そのとおりです。自分は自分という信念。アナウンサーになるとその考え方はとても重要です。人と自分を比べて落ち込んでしまう人もいるのですが、人それぞれ、みんな別の個性だよと後輩たちにはよく言っていました。それはまさに慶應義塾で学んだことだと思います。

──本日は有り難うございました。

(2022年9月15日、三田キャンパスにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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