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玉塚元一:ラグビー新リーグ「リーグワン」理事長に就任

2022/02/15

ラグビーが醸成するリーダーシップ

──ラグビーの強化には常にリーダーシップということがついてまわりますね。玉塚さんもずっと経営をされているように、ラグビーは経営との親和性がすごく大きいと思うのです。

玉塚 リーグワンにはいわゆるティア1という世界の強豪国の代表選手が50人弱くらい参加するんです。その全員のトータルキャップ数が1400キャップぐらいだから、1人当たり30キャップ弱ぐらいで、かなり高いレベルの選手が各チームに分散されます。

──代表キャップを持つ選手がパナソニックには3人いますね。

玉塚 ヘッドコーチもディビジョン1、12チームのうちの10チームがグローバルスタンダードを経験してきた外国人なんですね。ロビー・ディーンズ(パナソニックヘッドコーチ、元オーストラリア代表ヘッドコーチ)とかスティーブ・ハンセン(トヨタディレクター、元ニュージーランド代表ヘッドコーチ)、マイケル・チャイカ(NECディレクター、元オーストラリア代表ヘッドコーチ)などです。

グローバルで勝っていくためには、グローバルで戦ってきたリーダーがその組織を導いて、チーム全体の目線レベルを上げることはすごく大事なことだと思います。リーグワンのチームに南半球の代表をコーチングしていたヘッドコーチや代表キャップを持っている選手がいるのはすごい財産なのです。若手の日本人選手が刺激され、チーム全体のレベルが上がっていく。これは内に閉じがちな日本の企業にとっても参考になると思います。

また、ラグビーという競技自体が今の企業組織のあり方にとてもヒントになると思います。大きな戦略や方向性は、ヘッドコーチ、CEOが方針を出し、それに沿ってトレーニングをし、人材を揃えるんだけど、いざゲームになったらフィールドプレーヤーが各々のプロフェッショナリズムで判断を臨機応変に行うわけです。

企業でもCEOと実際に職務を遂行するプレーヤーの独自性、スピード感、現場への権限移譲ということが、これからの組織にはすごく求められると思います。

結局会社もチームプレーですが、誤解してはいけないのは、1人1人の個が強い上でのチームプレーだということです。営業だったら営業、商品開発だったら商品開発で個のレベルを上げていった上で、1つの目標に向かって問題解決できる組織がベストなわけで、ラグビーにはこれからの組織を考える上でのイノベーションやヒントがたくさんあるのではと思います。

スポーツビジネスとしての可能性

──そうですね。ラグビーが今後、野球やバスケットのようにビジネスとして成り立っていくにはどうしたらよいでしょうか。

玉塚 野球のようにいきなりプロというのではなく、段階が必要だと思いますね。例えばプロ野球は年間143試合、ホームで40試合ぐらいできるわけです。スタジアムもいわゆる地域の独占的な運営権を持っていて、そこで商売もできる。ですが今度、リーグワンでは最大18試合とか20試合です。そして、選手だけでも1チーム50人ぐらいは必要です。そういった難しさがある。

一方、スポーツコンテンツとしては2019年に証明された通り、すごくエキサイティングだし、野球の試合を3時間見るのとは違う、別のエキサイトメントがあります。

また、ラグビーは母体企業がいずれも錚々たるグローバルカンパニーです。それも、長い間、企業のラグビー部だった時から応援していて、ラグビー部出身の役員や部長の人も結構いる。それぞれの企業がいろいろなソリューションやノウハウを持っているので、他のスポーツにはないビジネス形態をうまくつくることができれば非常に面白いと思っています。

現在、ラグビー選手としてプロフェッショナル契約をしている人と、会社の社員として契約している人がいるわけですが、僕は社員もプロだと思うのです。必死にラグビーをやってブランド力を上げ、母体企業に対して貢献をしていくわけですから。

ラグビー部出身でその企業の要職についている人はたくさんいます。スポーツ選手のセカンドキャリアを考えても、ラグビーの場合、根性やチームワーク、コミュニケーション能力などが備わった人間が仕事に戻って、将来的に課長や部長、役員になることができるので、最高だと思うんですね。

慶應ラグビーへの思い

──かたや、われわれの慶應義塾体育会蹴球部は最近パッとしない感じもありますが、どう見ていますか。

玉塚 慶應はどうしても入試の壁がある。高校時代から、ラグビーも上手で勉強もある程度頑張れる子に目星をつけて、リクルーティングを一生懸命していますが限界がありますよね。

そうすると、一貫教育の強みで、塾高とか普通部のところから底上げしていくことが重要かなと思います。そこでどれだけ一体感を持って連携していくかが必要ですよね。幼稚舎からラグビー部がありますから。

今度、慶應の大学のGMをやっている和田康二さんが塾高のフルタイムのヘッドコーチになるんですよね。これはすごくいいことだと思う。

また2019年には、ニュージーランドの留学生が2人入ってくれた。いろいろなことを言う人がいますが、僕は福澤先生の考え方からすれば、慶應こそが、外国人留学生と一緒になってプレーして日常生活を過ごし、お互いに学びあうのがよいと思っています。あれをどうやってサステイナブルな仕組みにしていくかですね。

慶應ラグビーは皆の期待に応えるために、何とかして、もう少し強くならないと、というのはありますよね。

──そうですね。昔みたいな練習をしろとは言えませんし。慶應独自の何かを見つけてほしいですね。当時を振り返って、生まれ変わったらもう1回、慶應のラグビー部でやりたいですか?

玉塚 ラグビーをやっていなかったら何もなかったと思いますよ。でも山中湖だけは行きたくない(笑)。本当に僕らのころの練習はきつかった。今では許されないだろうけど、あの練習をやって、僕が4年の時は明治にも早稲田にも勝って対抗戦で全勝優勝した。渡瀬は留学したから1年遅れて、日本一にまでなっちゃったから(笑)。

──でも、私のへなちょこキックで玉塚さんは脳震盪を起こしたので、申し訳ないなと思っていて。

玉塚 そうだっけ(笑)? でも、素材として大したことなくても努力をすれば巨象も倒せる、という経験ができたことはものすごく大きいですよね。

今、息子が一貫教育校でラグビーをやっているんですが、この間、大事な試合で負けて泣いて帰ってきた。膝小僧擦りむいて、仲間と悔しい思いをして涙を流す。eスポーツじゃ、絶対そんな涙は流せないですよ。世の中はどんどんデジタルになっていきますが、だからこそリアルのスポーツでケガをしたり、勝ったり負けたり、友達と泣くことが僕はすごく重要だと思う。

──痛い思いをするというのは重要ですよね。

玉塚 僕はもちろん監督だった上田昭夫さんにもすごく感謝していますが、やはり慶應ラグビーは小泉信三先生の、「練習は不可能を可能にす」がすべてを語っていると思いますね。

──今日は有り難うございました。

(2021年12月14日、ロッテホールディングス本社にて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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