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玉塚元一:ラグビー新リーグ「リーグワン」理事長に就任

2022/02/15

  • 玉塚 元一(たまつか げんいち)

    一般社団法人ジャパンラグビーリーグワン理事長
    塾員(1985 政)。株式会社ロッテホールディングス代表取締役社長。大学蹴球部時代はフランカーとして活躍。2021年10月、リーグワン理事長に就任。

  • インタビュアー渡瀬 裕司(わたせ ゆうじ)

    パナソニックワイルドナイツ戦略推進ディレクター、元サンウルブズCEO・1986 法

新リーグへの意気込み

──トップリーグに代わるラグビーの新リーグ「リーグワン」がいよいよ始まります。玉塚新理事長のリーダーシップにはとても期待していますが、ご多忙の中、どのような経緯で就任されたのでしょうか。

玉塚 2021年の前半、日本ラグビーフットボール協会の専務理事の岩渕健輔さんと僕に、いよいよ新リーグをつくるので、共同設立準備委員長になってほしいと言われました。

今回のリーグは新しい会社をつくるようなものなので、僕は新リーグを立ち上げる時にはまったく違う発想でやるべきだと思いました。組織の経営に留意してチームをつくらないと上手くいかない。森重隆ラグビー協会会長も岩渕さんも同じ問題意識を持っている中、僕に理事長をやってくれないかということになりました。

ところが、6月にロッテホールディングスの社長にちょうど就任するタイミングだったので中途半端なこともできない。それで、現場のオペレーションの体制をガッチリつくってほしいと言いました。僕は日常のオペレーションには入れないけれど、ポイントで方向修正したり、戦略を打ち出したり、適宜コミュニケーションをとることはできる。そこで東海林一さんを専務理事にすることをお願いしました。

東海林さんはコンサルタントとしてもすごく優秀で能力が高い人です。他にも池口徳也さん(元ミスミ副社長)など、経営を経験した人でチームが編成されたので、彼らをベースにして僕が理事長という形ならばできなくはないと思ったのです。

──玉塚さんの気持ちとしてはいかがでしたか。

玉塚 最大の動機はラグビーに対する恩返しですよね。ラグビーをやっていなかったら僕なんか、とんでもない人になっていたと思うんです(笑)。さらに、ラグビー界全体の中ではこのリーグワンを成功させることはすごく大事なことだし、ラストチャンスだとも思ったので、これは逃げるわけにはいかないと感じましたね。

一方、同じ頃にロッテホールディングスの社長になったわけですが、ロッテという会社は、昔からスポーツを応援してきたんです。千葉ロッテマリーンズも持っているし、冬のスケートも積極的に応援し、地域のスポーツ大会の協賛もやっている。そういった環境もあったし、挑戦から逃げるというのは嫌なので受けました。

責任の重さも、時間的な限界も重々承知していますが、経営においては常にないないづくしの状態で物事をつくっていくことばかりやってきたので、できる範囲でベストを尽くしてやっていきたいと思っています。

2019年の灯を受け継いで

──そういうお話を伺って、われわれもますます期待しています。

玉塚 2019年の日本代表のワールドカップでの躍進と、日本中であれだけラグビーに沸いたことが新リーグにつながったと思うんですね。

2019年は、もちろん日本代表選手がすごく頑張ったのだけど、ラグビーというスポーツに対して、あれだけ幅広く日本の国民から共感を得た。それは、例えば「one for all」のような考え方やノーサイドの精神と日本の文化がマッチしたのではないかと思うんですよね。

でも、あのムーブメントが生まれるには、2015年ワールドカップで南アフリカに勝った「ブライトンの奇跡」があり、この間に大きく飛躍した。その中でもすごく大きな貢献は、「スーパーラグビー」に2016年から2020年まで参加していた日本のチーム、サンウルブズだと思うんです。

このプラットフォームを渡瀬さんや皆が苦労してつくってくれた。最初はなかなか勝てなかったけれど、南半球の本当に強いグローバルスタンダードのチームと試合を重ねる中で日本代表が強化されたので、渡瀬さんにはものすごく感謝しています。

加えて、遡ると2000年頃からトップリーグのベースをつくった人たち、ラグビーのワールドカップを日本に持ってこようと企画して実現させた先人たちの思いがあった。この灯を絶対消してはいけない、という思いがリーグワンにつながっていると思います。

フェーズ1での挑戦

──具体的にはこれからどのように変えていきたいと思っていますか。

玉塚 トップリーグは日本ラグビーフットボール協会の一組織でしたが、今回のリーグはその試合興行をする権利をリーグに移管するわけです。それぞれのチーム、そしてリーグが試合の運営、チケット販売やオペレーションの全責任を負うというところが決定的な違いです。

これはコペルニクス的な転換で、日本協会におんぶにだっこだったのを、チームが自ら創意工夫し、スタジアムのことやチケット販売、集客も考え、エキサイティングな試合をすることをリーグと一緒になって盛り上げなくてはならない。ある意味退路を断ってそういう構造に転換したんですね。

そのためには、役割分担や様々な規約の改定も重要ですが、本当に大事なのが「リーグワンが何を目指していくか」というビジョンです。

具体的にどのように試合がエキサイティングになるのかは、1月からの試合にかかっていますが、僕はまず、3年間をフェーズ1として、この間にビジネス的にも形をつくっていきたいと思っているんです。

例えばあちこちにあるラグビーファンの情報を統合し、データベースをつくり、その人たちにタイムリーな情報を発信してマーケティングをしていくこともできると思います。そして大きいのがスタジアムの問題です。

──これは大変大きいですね。

玉塚 パナソニックは熊谷市がとてもラグビーにポジティブなので幸運ですが、関東のほとんどのチームはスタジアムに苦労している。自治体と組んで、ラグビーにも使える新しいスタジアムの姿を描いていかなければいけない。成功事例をどんどんつくっていかなければならないと思います。

そのため、新しい考え方として、リーグに事業共創パートナーという考え方を取り入れたんです。これは、例えば胸にロゴのシールを貼ってもらうような広告だけではなく、ラグビーというポテンシャルのあるコンテンツを通じて、お互いWin-Winに事業をつくっていきませんかというものです。

現在、NTTグループがタイトルパートナーに、三菱UFJフィナンシャル・グループ等の企業がパートナーになってくれています。例えば映像コンテンツだったらNTTがラグビーコンテンツをどうやってエキサイティングに届けていくか、といったことをプロジェクトマネジメント的にスピーディーに進めていく体制はできてきました。

──そうやって回っていくと、若い人が「自分もやりたい」と変わっていきますから大きなことですよね。

玉塚 ラグビーをやっていた人の恩返しの気持ちってすごいんですよね。東海林さんだって前職ですごいお金もらっていたに違いないですが、それを捨てて、リーグワンのためにフルタイムで専務理事をやってくれている。そういう人がいっぱいいる。

僕はアジアの中でのリーグワンというのはすごくチャンスがあると思っています。世界にはオーストラリア、ニュージーランドを中心としたスーパーラグビー、イングランドのプレミアシップ、フランスのトップ14というメジャーなリーグが3つあるけれど、アジアにはぽっこり穴が空いていた。

これからの世界のグローバルな成長拠点はアジアだし、人口は多いし、アジア地域の選手、チームを将来どうやって巻き込むかは大きいと思います。

ヨーロッパや南半球の強いチームとクロスボーダーをやりながら、ラグビーファンに魅力を訴えていくことは、すごいポテンシャルがありますね。

──上手くいけば世界クラブチャンピオンシップができますね。

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