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【演説館】
水谷 要:リバーブランディングの視点から地域と環境を見直す

2025/11/13

バイオリージョナル公園とは

バイオリージョナル(BR)公園とは、皆さんの生活の場所につくる、地域特性を反映した公園のゾーンコンセプトです。バイオ=生物(学)、リージョナル=その地域特有、の公園です。コンセプトマップを活用して、好きなように公園ゾーンを散策し、楽しみます。

BR公園はなにも日本有数の豊かな自然でなくてもいいのです。三面護岸の川でも、そこで逞しく生きている生物の観察でもいいのです。何といっても人新世(後述)が話題にのぼる時代です。人間の負の歴史が一掃されて新しい環境で生きている動植物を観察することは、訪れる人々にとってかえって新鮮かもしれません。

そして、生物多様性や生命地域主義をわかりやすく見学できる場所は、子どもたちやこれから自然科学を学びたい学生たちにとって、素晴らしい学びの場となることでしょう。

ただ、BR公園への集客の意識を地元住民や有識者が共有することが大切です。

環境の視点からすると、生命地域主義の視点はとても大切です。自治体や町村など行政上の区割りではなく、地理的・生態系的にみた地域の特徴から決まる古くからその土地に根差した固有の文化は、河川の流域を中心に発生する場合が多いのです。それはその地域特有の植物相や動物相をもつ地理的空間であり、自然の様相によって左右されるために柔軟性と可変性を持っています。行政区域が生態系的分断の原因にならないようにコモンズの発想で守られることを切に願っています。

人新世とは?

人新世とは地質学の言葉で、人類の活動が地球の地質や生態系に影響を与えた、現代を含む時代区分を指します。その特徴は人類の活動によって生じた地球温暖化などの気候変動、大量絶滅による生物多様性の喪失、人工物質の増大、化石燃料の燃焼や核実験による堆積物の変化などとされています。このように人類が地球の地質や生態系に与えた負の影響は計り知れませんが、私たちはそんな現実の中で地球環境に向き合っていかなければなりません。

ひとつ事例を紹介しますが、西日本の中規模河川のダム上流域には、陸封されているのにアユの生態系ができつつあります。しかも漁業資源としても期待できるほど安定しています。

本来、アユは海と川を行き来する魚類ですが(一部、琵琶湖などの湖産アユを除きます)、そこのアユたちは降海することなく、閉鎖区域で一生を終え、次世代にその子孫を継承しています。たくましく進化しているアユのことを思うと、人間も自然の一部と考えること、独善的なふるまいを慎むことを同時に肝に銘じなければと思います。

最後に

日本中の多くの川がなぜ壊れたのか?

その答えは簡単です。ほとんどの人たちが地域の川に興味を示さなかったことや環境を軽視したこと、自然が繊細であることを知らなかったこと、災害の視点では自然の力を甘く見ていたことです。いまからできること、やるべきことを地域ごとにどのように決めて、実現するか。生命地域主義は、とても大切な考え方です。地域を憂う有能なリーダーのもと、その地域独自のオンリーワンの価値を皆で考え積み上げることが、過疎化への対策の決め手となります。もちろん、着眼大局しながらも着手小局で。

地域コミュニティが魅力的であること。そのカギは"水の循環"への参画ではないでしょうか。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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