【演説館】
氣賀 崇:BtoBのデジタルコミュニケーションで日本の製造業は変わる
2025/02/21

昨年9月、『BtoB 製造業のコミュニケーション革命─顧客接点のデジタル化がもたらす未来』を、東洋経済新報社から出版しました。技術開発に比重を置きがちな日本の製造業が、デジタルコミュニケーションを駆使して自社や商品の訴求を積極的に行えば、その埋もれた価値がもっと世界で評価されるようになる、というのが本書の主旨です。
ふだんは目立たなくても、質の高い社会インフラを支えるBtoB 製造業は、日本の産業界の影の主役。多くの塾員の方も、各方面で活躍されていることと思います。
本稿では、苦手意識から手付かずだったコミュニケーション強化が、日本の誇るBtoB 製造業のさらなる飛躍を可能にする伸びしろの大きい施策であることを解説します。
見直される日本のものづくり
日本企業が栄華を誇った家電や半導体は、失われた30年の間に輝きを失いました。しかし作り手が海外企業にシフトしても、作るための製造装置や部品・素材を供給しているのは今でも日本のBtoB 製造業です。
そこには、半導体製造関連で高シェアを誇る東京エレクトロンや信越化学のような純粋なBtoB 企業もあれば、スマホの撮像素子で世界シェアNo.1のソニーのように、BtoCを手掛けながらBtoB としても高い業績を上げる企業もあります。
実は国際関係が不安定さを増す中、こうした日本のBtoB 製造業が一層の注目を集めています。知る人ぞ知る地味な存在ながら、その高い技術力と品質、そして安定した供給力やサービス力が、不安定な世情下で評価されているのです。GoogleやAmazonにやられっぱなしだったデジタル化でも、今後はそのテーマが、工場や自動車などの〝もの〟と結びついて自律・自動化させることにシフトしていくため、〝もの〟の品質が問われることになります。
私たちは今、世界的にものづくりが見直される局面にいるのです。日本のBtoB 製造業にとっては追い風と言っていいでしょう。ただし、だまっていても売れる訳はありません。
日本のものづくりの競争相手が米欧だけで、品質や価格に明確な優位性があった高度成長期は、作れば売れる時代でした。しかし今では、米欧に加えて中国、台湾、韓国などの強力なライバルと激しい競争を強いられています。そこから頭一つ抜け出るための工夫がなければ、簡単に埋没してしまいます。
もちろん、どの企業も技術力は磨き続けている訳ですが、この戦いを勝ち抜く上で欠かせないのに、日本のBtoB 製造業があまり力を入れていない施策があります。それが、自社や商品の価値をわかってもらうための潜在顧客とのコミュニケーションです。
口下手な日本のBtoB 製造業
「企業が商品のことをアピールするなんて当たり前だろう」。そう感じる方がほとんどでしょう。
ですが、「できていない」というのが、四半世紀にわたってBtoB 企業のコミュニケーションをお手伝いしてきた私の率直な印象です。
これまでは、やらなくても済む理由がありました。高度成長期には商品が飛ぶように売れたので、安定供給が最優先でしたし、特定顧客との長期的取引の中で密なコミュニケーションがあるので、自社や商品を広く世に訴求しなくてもよかったのです。
また、語らないことをよしとする「沈黙は金」の文化、「つまらないものですが」といった謙譲の美徳が、自社の技術や商品の価値を言語化しない傾向を助長しました。それでも、競争相手が少なく商品の優位性が明らかだった時代には問題ありませんでした。
しかし現在は、競合相手が増え、技術的な差異も縮まっています。特に、アグレッシブな海外の競合先は、言葉巧みに自社商品のアピールをしてきます。日本企業の優位性も、耐久性やサービス品質など、購入時にはわかりにくい価値の比重が高まっているので、言語化しないと伝わりません。
また、自動車のEV化やエネルギーシフト、社会のスマート化という大変革の進行でプレイヤーの入れ替えが進んでおり、新規顧客開拓の重要性が急速に増しています。その場合、いくら日本では知られた企業であっても、自社を知ってもらうところからはじめることになります。
どんなにいい商品でも知られなければ存在しないのと同じです。競争の激しいグローバル市場にあって、日本のBtoB 製造業はもはや口下手であることに甘んじている余裕はありません。
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氣賀 崇(きが たかし)
イントリックス株式会社代表取締役社長・塾員