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合六強:ウクライナ侵攻から1年――収束に向かうには何が必要なのか

2023/03/08

  • 合六 強(ごうろく つよし)

    二松学舎大学国際政治経済学部准教授・塾員

終わりの見えない戦争

ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まってまもなく1年を迎える。誰もがさらなる長期化を恐れているが、現時点でプーチン大統領に攻撃を止める気配はなく、ウクライナ側も祖国防衛のため徹底抗戦の構えである。昨年3月に断続的に開かれていた停戦交渉は、4月に入りキーウ近郊の街ブチャでロシア軍による虐殺行為が発覚したことを機に止まって以来、再開の目処は立っていない。すでにおびただしい犠牲と損害を生み出したこの戦争にまだ終わりは見えない。

戦況

この1年の戦況を振り返ると、大きく3つの局面に分けることができる。

まず2021年秋からウクライナ国境周辺に集結していた大規模なロシア軍は、北部、東部、南部の3方向から全面侵攻を開始した。英国王立防衛安全保障研究所の報告書によれば、ロシアには、侵攻後10日間で作戦を終えて占領を開始し、8月までにウクライナ全土を併合するという計画があったという。しかし、ウクライナ軍の予想外の善戦によりロシア軍は3月末に首都キーウ近郊からの撤退を余儀なくされ、兵力を東部ドンバスに再配置した。

当初の計画が失敗に終わった後、4月から7月頃にかけて主導権を握ったのは、火力で勝るロシア軍だった。ロシア側は、米欧諸国からの武器に支えられるウクライナ軍の頑強な抵抗によって大きく消耗しながらも東部に兵力を集中させ、マリウポリやセヴェロドネツクなど主要都市を徐々に制圧し、支配地域を拡大していった。

しかし、こうした状況に変化が見られたのが、ウクライナ側が主導権を握った8月末以降である。ウクライナ軍は、9月初頭に東部ハルキウ州における大規模な反転攻勢に成功すると、11月初頭には、3月に大きな戦闘を経ることなく占領された南部ヘルソン州のドニプロ川西岸を一気に奪還した。これによりウクライナ側の管理地域は、3月時点で全土の約76%だったのに対して約83%まで回復した。他方、ロシア軍が苦戦を強いられるなか、プーチンは9月末に部分的動員に踏み切り、また南部・東部4州の一方的「併合」を宣言した。

12月以降、東部では激しい戦闘が続いているものの、冬が深まるなかでやはり戦闘のテンポは落ち、全体の戦況としては膠着状態にある。本稿執筆時点(2023年2月)で、ロシアが大攻勢を仕掛けつつあるが、ウクライナがこれを凌ぎ、予想される反転攻勢でどこまで領土を奪還できるかに注目が集まっている。

プーチンの誤算

そもそも全面侵攻を始めるにあたって、プーチンは少なくとも2つの大きな過ちを犯した。

まずはウクライナ国民の抵抗の意思を過小評価したことである。それゆえ、プーチンは、ウクライナの属国化を目的とした「特別軍事作戦」を短期のうちに完了できるという甘い見通しを持って侵攻を始めた。

ところが、キーウ国際社会学研究所の世論調査によれば、全面侵攻2週間前の段階で、57.5%の国民が、そして71.9%の男性が、「何かしらの抵抗(武力抵抗、あるいはデモ、抗議、行進、ボイコット、ストライキ、市民的不服従などの市民的抵抗、またはその両方)を行う」と回答している。また他の調査によれば、多くの国民は米欧からの支援に悲観的で、まずは自国でなんとかしなければならないと考えていた。ウクライナの人々にとってロシアとの戦争はクリミアが占領された2014年春から続いていた。また2021年春から大規模なロシア軍が国境周辺に集結し、緊張状態が1年にわたって続くなか、侵攻前からいざとなれば立ち上がるという覚悟と決意があったと言えよう。

こうした抵抗の意思は戦争が長期化するなかでも続いている。昨年12月の世論調査によると、「たとえ戦争が長引き、独立の維持が脅かされるとしても、ウクライナはいかなる状況でも自国の領土を放棄してはならない」と回答した人が85%に上った。ロシア軍は人々の士気を挫くため、住宅、学校、病院などを意図的に破壊し続け、10月以降は、冬を武器にすべくエネルギー施設への攻撃を繰り返しているが、その目論見は大きく外れている。

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