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【演説館】
後藤弘子:特定少年という少年──少年法改正と社会の責任

2022/04/13

  • 後藤 弘子(ごとう ひろこ)

    千葉大学大学院社会科学研究院教授・塾員

成人年齢の引下げ

この4月1日から、約150年近くにわたって当たり前だとされてきた法秩序が大きく変化する。1876(明治9)年に「自今満弐拾年ヲ以テ丁年ト相定候」との太政官布告(第41号) が出され、これが現行民法(1896年)に受け継がれ、20歳が成人年齢とされてきた。それが、18歳となり、18歳未満が未成年者となる。そのため、4月1日には現在18歳・19歳である人(2002年4月2日生まれから2004年4月1日生まれ)は、一気に成人となる。

この社会において、おとなとなる年齢は長らく20歳であった。それが変化したのは、憲法改正に関する国民投票法(2007年)や公職選挙法改正(2015年)といった、憲法を変えたり、国民の代表を選ぶ年齢についてが最初だった。選挙権年齢の引下げは、投票できる権利を与えるものであり、しかもその行使は本人の意志に任されており、単に選択肢が増えたにすぎない。

一方で、民法の成人年齢は、未成年としての広範な保護プログラムからの離脱を意味する。未成年者であれば、親権者の同意がない契約は後で取り消すことができるため、未成年者が消費者被害等から保護されてきた。その年齢が18歳に下がることで、18・19歳は、成人として扱われるため、契約等においてより慎重な対応が求められることになる。さらに、差別的だと問題となっていた女性の婚姻年齢も16歳から18歳へと引き上げられる*1

民法の成人年齢の引下げの影響は、18・19歳の日常生活全般に関係する大規模なものであるため、3月になってから、多くの関連報道がなされるようになった。けれども、4月1日からの年齢の変更は民法にだけ生じるわけではない。

少年法と特定少年

少年法は、犯罪等を行った少年を非行少年として、未成熟を理由として特別扱いする法律である。少年法は1949年以来、20歳未満を少年、20歳以上を成人として、非行少年に対しては、成人とは異なる教育的保護的な対応を行ってきた。

刑法等の刑罰法規に違反する行為を行った14歳以上20歳未満の少年の事件は、すべて家庭裁判所に送られ、家庭裁判所調査官による調査や場合によっては少年鑑別所の心理技官による鑑別を受ける。そこで収集された情報と捜査段階の情報をもとに、裁判官がどのような処遇がこの少年に必要なのかを判断する。さらに、14歳未満の刑事未成年であっても、児童相談所の判断が前提となるものの、触法少年として家庭裁判所の審判の対象となる。また、犯罪に至っていなくても、将来犯罪を行う虞(おそ)れのある場合には、虞犯(ぐはん)少年として家庭裁判所の審判の対象となる。

家庭裁判所調査官の教育的措置で十分であるために、審判が開始されない場合(審判不開始)を除いて、家庭裁判所は審判を開き、保護処分(保護観察や少年院送致など)や、事件を検察庁に送り返して起訴し、成人と同じ裁判を受ける処分(検察官送致処分=逆送)などを言い渡す。

今回、昨年の少年法改正により、18・19歳の少年は特定少年として、18歳未満の少年とは異なる取扱いがなされることになった。しかし、4月1日から、少年法の対象となる年齢は、従来どおり20歳と変わらないため、特定少年であったとしても、全件家庭裁判所に事件が送致されるという手続に変わりはない。

まず、特定少年の場合は、虞犯の適用がなくなった。つまり、犯罪を行わなければ、少年法の教育的保護的な対応の対象とはならず、早期の介入で非行を防止するという少年法のシステムの例外となった(65条1項)。

また、特定少年に対する保護処分はこれまでとは異なり、「犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲」で少年院送致等を行うこととされた(64条1項)。保護処分で、保護観察処分となり、社会の中で保護観察官や保護司の指導監督等を受けた際に、遵守事項が守られない場合には、家庭裁判所の審判を経て少年院に収容することが従来同様に可能とされただけではなく、必要な教育が終了したと判断された場合には、再び社会に戻すことができるようになった(66条)。

さらに、原則として検察官送致される事件(原則逆送事件)が、これまでは、故意で被害者が死亡した場合に限られていたのが(20条2項)、短期の刑罰が1年以上の懲役・禁錮に当たる事件にまで拡大された。そのため、強盗罪や強制性交等罪なども、原則逆送事件となった(62条2項)。

加えて、特定少年の場合は、少年が刑事裁判によって有罪を言い渡された場合の特別扱いが廃止され、たとえば、これまでなかった資格制限が行われることになったほか(67条)、逆送後に検察官が地方裁判所に起訴した場合は、これまで禁止されていた推知報道(少年が特定できる報道)を行うことが可能となった(68条)。

少年法が改正された理由

少年法の改正は、21世紀になって、今回で5回目となる。これまでの4回は基本的には何か耳目を集める少年事件が起こり、これまでの制度では十分ではないと判断されたことから改正が行われた。たとえば、2000年の少年法改正は、山形マット死事件や神戸連続児童殺傷事件などの少年事件がきっかけとなった。

とくに14歳の少年が2人の小学生を殺害した後者の事件は、当時の少年法では、16歳未満の少年の場合には、成人と同様の刑事裁判が行えないことが問題となり、14歳以上であれば、家庭裁判所は逆送を行い、刑事裁判で責任を問うことができるようになった。そのほか、それまでは審判が非公開であるために、まったく情報を得ることができなかった被害者が意見を述べたり、処分内容について教えてもらったり、審判の記録を読んだりコピーすることができるようになった。その後の少年法の改正を経て、今では、被害者は一定の事件に限定はされるが、傍聴もできるようになった。

今回の少年法改正が、大きな少年事件が起きたわけでも、少年犯罪が増加・凶悪化したわけでもないのに行われたのは、冒頭に述べたような公職選挙法や民法の改正に合わせるためである。今回の改正に関しては、当初から「国法上の統一性」ということが言われ、それが改正の理由となった*2

「国法上の統一性」を理由として少年法改正の議論が法制審議会で2017年に開始されたものの、現行少年法が犯罪者に成長させないという「健全育成」(1条)のための一定の機能を果たしていることを前提として、少年法の成人年齢の引下げへの反対も強く、議論は膠着状態となった。それを破ったのは、政治だった。

2020年7月の与党・少年法PTが「少年法のあり方についての与党PT合意(基本的な考え方)」をまとめ、「未だ成長途上にあり、可塑性を有し、更生や再犯防止のためにも教育的処遇が必要かつ有効である。したがって、20歳以上の者とは異なる取扱いを要する」として、18・19歳は少年法上少年のままとしながら、18歳未満とは異なる扱いをすることにした*3。これを受けて、2020年10月に答申がなされ、2021年の法改正となり、特定少年というカテゴリーが誕生した。

特定少年の社会復帰への影響

この4月1日に改正少年法も施行され、特定少年についての取扱いも開始される。

まず最初に影響が出るのが、少年の実名報道である。この点に関して、最高検察庁は、4月1日以降逆送されて起訴した少年事件に関しては、場合により実名を公表するとした。少年法では、逆送の場合には検察庁は原則として起訴しなければならない(45条5号)。もちろん、検察庁が公表したからといって、実名を報道するかどうかは各報道機関の判断となる。しかし、実名報道が原則である報道において、実質的なお墨付きが与えられたにもかかわらず、それを差し控えるという対応はおよそ期待できない。

そのため、少年法上は少年であるにもかかわらず、起訴後は実名が報道されることとなる。成人と同様の刑罰が科せられ、刑務所等から社会に戻ってきた時、実名が報道されていれば、当然就職などで大きなハンデを追うことになる。

少年法は、少年が犯罪を行うのは、少年を児童虐待やいじめの被害者として発見できず、社会が放置したためであると考えており、少年の社会復帰の援助を行うことで、少年を非行少年にした社会が、責任を果たすことを求めている。今回の実名報道解禁により、社会やメディアは、特定少年のみに責任を押し付け、自らの責任を果たさなくなる可能性は高い。18・19歳という年齢まで、その少年が抱えている問題を発見できなかった社会の不作為を免責することは、少年法が求める対応ではない。

加えて、たとえ刑事裁判になったとしても、保護処分の方がふさわしいと地方裁判所が判断した場合には、もう一度家庭裁判所に事件が戻り、少年院送致などが言い渡されることもある(55条移送)。これまでは、家庭裁判所や少年院は、実名報道が正当化された少年を扱ったことがない。そのため、審理や処遇にどのような影響が出るのかが予測できない。

実名報道以外の今回の少年法改正は、おもに家庭裁判所が特定少年とどのように向き合うかを問うものとなっていることから、家庭裁判所が少年法1条の少年の健全育成に沿うかたちの対応を行うことで、少年の社会復帰上のリスクを最小化することができる。

社会が特定少年を非行少年にした責任をどう果たせばよいのかについては、少年法は具体的に言及していない。今回、民法とは異なり、特定少年は少年法上は少年のままである。その特定少年を健全に育成する社会の責任を、私たち1人1人が改めて考えることを今回の法改正は求めている。特定少年は少年であって、少年法上は少年として扱われる権利を有している存在であることを忘れてはならない。

〈注〉

* 1 具体的な変化の内容については、https://www.govonline.go.jp/useful/article/201808/2.html参照。

* 2 自由民主党政務調査会「成年年齢に関する提言」(2015)。https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/130566_1.pdf

* 3 https://www.moj.go.jp/content/001329126.pdf

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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