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鳥居希:B Corp ムーブメントの希望

2021/07/20

コミュニティで翻訳する入門書

B Corpの概念を知るための、認証取得の入門書とも言える書籍が『The B Corp Handbook』です。

2014年に初版、2019年にダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンについてより丁寧に書かれた増補版が発売されたこのハンドブックには、B Corp の概念、Bインパクトアセスメントの説明、認証取得のプロセスなどが詳細に書かれています。

日本には、2021年6月現在、B Corp認証企業は6社しかありません。世界で4,000社のうち6社です。ここ数年その数は増えておらず、その理由の1つが言葉の壁であると考えた私たちは、ハンドブック第2版の日本語版を当社の出版事業第1弾として出版することにしました。まだ当社も認証取得に向けて動いているところですが、その歩みを進めながらも、同時に仲間を増やしていきたいと思っての決断です。ビジネスにおける成功の再定義は1社では到底できません。

日本語版の出版プロジェクトは、コンテンツレーベル・黒鳥社と共同で行っています。題して「あたらしい会社の学校『B Corp ハンドブック翻訳ゼミ』」。

当初は、どなたかお1人に翻訳をお願いしようと考えていました。黒鳥社のコンテンツ・ディレクターである若林恵さん、編集者の矢代真也さん、当社のメンバーと数カ月にわたって構想を練るうちに「オープンなかたちでの翻訳」に話がスッと収束しました。この翻訳自体が、日本でのB Corpの意味をつくっていくのに重要なプロセスであり、さまざまな視点を入れることが、しっくりくるかたちだと思えたのです。そこからB Corp認証取得に関心があり、かつ翻訳に関わりたい人を広く募り、最終的に30名ほどのメンバーで、今年の1月から月に1回(全6回)のゼミを中心に翻訳を進めています。業種としては製造業、製材業、小売、金融、メディア、PRなど、職種も経営者、職人、弁護士、営業職、研究者など、所属している会社の規模も、大企業から中小企業、スタートアップまで、多様なメンバーのチームです。

ゼミでは、分担した翻訳原稿を持ち寄り、B Corpで問われていることの背景を、それが生まれた米国を中心とした歴史・社会・文化を勉強しながら読み解き、日本の文脈に落とし込んだり、メンバー同士、働くなかでの経験を共有したりして議論を行っています。

思い描くB Corp ムーブメントの姿

月1回のゼミの他にも、メンバーの自主企画で個人にフォーカスして話を聞く会や、翻訳の見直しを行う会が継続的に行われ、徐々にコミュニティとなってきているのが、6月現在の様子です。ゼミ自体は6月で終了となりますが、今までの半年は、ここから先に向けての土台であり、このコミュニティは、それぞれが関わりたい頻度や濃度で続いていきそうです。自社やクライアントの認証取得に向けて動きを加速する人もいるかもしれません。もちろん当社も、そのうちの一社です。

少し先になるかもしれませんが、このゼミを通して、みんなで育んできたコミュニティをより開いたものにしていきたいと考えています。B Corpに関する理解を深めたり、認証取得に向けて動きたい時、行動しやすく、協力し合えるようなコミュニティです。企業やそこで働く個人の力が解放され、それぞれのミッションが達成されることで、B Corpムーブメントは自然と成長するように思います。

B Corp の概念を伝える“ Use Business as a Force for Good”。この表現は、証券会社で働いていた時に感じたビジネスのパワーを、次の仕事で少し違う角度からも生かしたいとぼんやり考えていたことと、私自身が今B Corp に取り組む理由をうまくつなげてくれているように感じています。

〈参考資料〉

「B Corp」はみんなでつくるもの
https://atarashi-kaisha.medium.com/interview-nozomi-torii-5a2ce276c3e0

【バリューブックス出版記】なぜバリューブックスが出版をはじめるのか?
https://www.valuebooks.jp/endpaper/7752/

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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