【Researcher's Eye】
山岡 潤一:日常の課題から新しいメディアをつくり出す
2026/01/28
私が主宰する「Future Crafts プロジェクト」は、新しいモノづくりを通じて日常の課題を解決することをテーマにした研究グループです。3Dプリンタなどの工作機械や、時には新しい素材そのものから開発し、新しいメディアをつくり出しています。「デザイン」の研究室ですので、大学の中に閉じこもることはしません。現場へ赴き、そこにいる人々の声を聞くことから私たちの活動は始まります。
ある日、一人の学生が「動物に関する研究がしたい」と相談に来ました。私自身、子どもを連れて動物園に行くのは好きですが、研究対象として扱ったことはありません。「では、まずは現場に行ってみよう」と連絡をとったのが、キャンパスからもほど近い川崎市夢見ヶ崎動物公園でした。
園長は快く受け入れてくださいましたが、同時に動物園ならではのジレンマも教えてくれました。
「動物の命に触れることを大切にしたいが、実際に動物に触る体験を提供するのは難しい。動物へのストレスになってしまうから」と。
そこから学生の試行錯誤が始まりました。そして彼女がつくり上げたのは、直接触れなくても、動物の「命」を感じられる装置でした。空気圧制御で風船のように膨らむ機構をつくり、心拍の動きを再現しました。さらにリアルさを追求するために、園から提供してもらった抜け落ちたラマの毛を表面に貼り付けました。
完成した装置は、まるで生きているかのように温かく脈打ちます。園内のイベントで展示したところ、多くの家族連れが驚き、そして笑顔になりました。私たちが「園内にいるラマだよ」と伝えると、子どもたちは驚きとともに、その装置を撫でていました。
日々デザインの研究をしていると、学生たちは私一人では決して知ることのなかった世界へ私を連れ出してくれます。「中国舞踊をやっているから、パフォーマーのための衣装をつくりたい」「北海道出身だから、アイヌ紋様の伝統工芸を支援したい」。
私は彼らに研究の手法を教えている立場ですが、実際には私自身が彼らから学び、新しい世界を見せてもらっている毎日です。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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山岡 潤一(やまおか じゅんいち)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科准教授
専門分野/ヒューマンコンピュータインタラクション