【Researcher's Eye】
入江 奈緒子:人との出会い、ヒトとの出会い
2026/01/14
2011年から2023年まで、英国ケンブリッジ大学ガードン研究所において、アジム・スラーニ先生のご指導のもと、ヒト生殖細胞(卵や精子)の発生に関する研究に取り組みました。長い滞在となりましたが、その始まりを思い返すたびに、出会いとは本当に不思議なものだと感じます。
2011年以前、私は慶應義塾大学大学院医学研究科でマウスモデルを用い、骨代謝の恒常性について研究していました。博士号取得後、生命の根幹を担う生殖細胞の謎を解きたいという思いが募り、業績もコネクションもないまま、生殖細胞研究の第一人者であるスラーニ先生に突然メールを送ります。もちろん返事はなく、数回リマインドを送ると、「研究室にスペースがないので難しい」と返信が。私はすかさず「私は大きくないので、研究スペースはそんなに必要ありません!」と、半ば冗談のような、本気の返事をしました。
こうした"邪道"とも言えるやり取りの末、私は幸運にも生殖細胞研究に飛び込むことになりました。その始まり方ゆえか、研究テーマもまた当時の"王道ではない方向"へと向かっていきました。その頃、哺乳類の生殖細胞研究はマウスモデル一色で、研究室内でも全員がマウスを対象にしていました。そんな中、私はそれまで扱ったことのないヒトES細胞やヒト試料を相手に、ゼロから研究を立ち上げ、いくつかの重要な発見へとつなげることができました。このエピソードは、研究室内外で"最も稀有で愉快なストーリー"として、いまでも語り継がれています。
帰国後に実中研、そして昨年4月からは慶應義塾大学医学部分子生物学教室で研究室を主宰することになり、メンバーのリクルートに関わる機会も増えました。その中でふと、「スラーニ先生はなぜ、私を研究室に迎えようと思ったのだろう」と疑問に思うことがあります。2025年京都賞を受賞された先生にお目にかかり、恐る恐る尋ねてみたところ、「日本の学会で初めて会ったとき、確かにスペースにフィットしそうだと思った」と、冗談で返されました。「リクルートは直感だ」とおっしゃっていたことも思い出します。
これまで頂いた多くの人やヒト(細胞)との貴重な出会いを大切にしながら、今後の新たな出会いを楽しみに、学問に邁進して参りたいと存じます。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
- 1
| カテゴリ | |
|---|---|
| 三田評論のコーナー |

入江 奈緒子(いりえ なおこ)
慶應義塾大学医学部分子生物学教室教授
専門分野/ヒト初期発生、生殖細胞発生生物学