【Researcher's Eye】
鈴木 小夜:「医療薬学」と「薬学の社会責務」
2025/12/22
医療薬学は、より良い医療を目指し、医学・医療と薬学をつなぐ学問として1960年代にアメリカで誕生した。医学の発展や患者志向の高まりに伴いその重要性が増している。
日本では明治時代に、診断・処方は医師、調剤・投薬は薬剤師という医薬分業の原型が確立され、薬学教育も主として国立大学が研究者育成、私立大学が薬剤師輩出という役割分担の中で、過去にはそれぞれ垣根があった時もあるように思う。しかし、医療薬学が、医学と薬学、(基礎)研究と臨床の垣根を取り払い融合の道を開いたように感じる。
医療薬学は、有効かつ安全な薬物治療の実現のみならず、社会・公衆衛生、倫理的課題、医療人教育など医療現場の多岐にわたる課題を研究・解決し、その成果の実臨床への還元を目指すものであり、解決の方法論は多分野にわたる。薬学部6年制コース(後述)の薬学教育カリキュラムには、物理・化学系、生命科学系、薬理学、薬物動態学、製剤学、薬物治療学、データサイエンス、臨床系、倫理系科目など、幅広い学問分野が詰まっており、薬剤師・薬学出身者がさまざまな課題に複合的にアプローチできる基盤となっている。
薬学部には、高い資質を持つ薬剤師育成のための6年制(薬学科)と、薬剤師ではなく研究・開発など多様な分野で活躍する人材育成のための4年制(薬科学科)がある。6年制を卒業し国家試験に合格した「薬剤師」には、創薬、医薬品の供給、医療機関での臨床、薬事・公衆衛生、医学・薬学の発展に寄与するヘルスサイエンス全般で重要な役割を担う責務があることが「薬剤師綱領」に明記されている。
実際、COVID-19パンデミックの世界的危機に直面し、薬剤師・薬学出身者は、ワクチンや治療薬の創薬に関わった製薬企業、薬事行政を担う厚労省、PMDA(医薬品医療機器総合機構)や国立医薬品食品衛生研究所などの公的機関、臨床現場での対応まで、あらゆる場の最前線で尽力・貢献した。本学薬学部・大学院修了者も医療機関、製薬など各種企業、公的機関、大学等研究機関など多岐にわたる分野に進み、その専門性を社会の幅広い分野で活かしている。
薬剤師・薬学出身者が、薬と健康に関わるあらゆる場面で国民の生活と福祉に不可欠な役割を果たしていることをお伝えしたい。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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鈴木 小夜(すずき さよ)
慶應義塾大学薬学部教授
専門分野/医療薬学、医学/薬学教育