【Researcher's Eye】
倉科 佑太:消費社会における異分野融合研究
2025/10/22
デジタル化が進むことで、モノの消費スピードは飛躍的に加速している。映画館に足を運ぶのが当たり前だった映画が、レンタルビデオ店で借りることができるようになり、今では見たいと思ったその場でストリーミング再生が可能となった。
こうしたファスト化した現代社会の波はアカデミックの世界にも押し寄せている。これまで読者が論文誌を購読することで閲覧できた論文は、いまや著者が掲載料を支払い誰でも閲覧できるオープンアクセス形式がスタンダードになりつつある。そのため、出版社は質の高い論文を1つ掲載するよりも、話題となる論文をたくさん掲載する方が利益を得られる。
こうして論文の刊行数が年々増加し、消費社会の波に呑まれつつある。論文を書くためには新たな発見が必要だが、論文数が増えると、新しい研究を生み出すことはなかなか難しい。しかし、このような消費社会だからこそ、各分野の最新研究の情報を取得することは容易になり、私は最先端同士を融合した異分野融合研究に新たな可能性を見出した。
私は学生時代から研究室を独立するまでに、国内外合わせて5つの研究室に在籍してきた。振動工学、マイクロ/ナノ材料工学、バイオエンジニアリングといった異なる研究に従事してきた。研究の方向性は、常に医療応用に向いているが、扱う技術はそれぞれ異なり、刺激的な下積み生活を送ることができた。そんな私の研究室では、これらの経験を踏まえて挑戦的な新たな異分野融合研究を実施している。
異分野融合研究というと一般的には、異なる専門分野の研究者が各々の研究を持ち寄って1つの成果を生み出すことだが、専門の異なる研究者の間では研究にかかる時間や費用、モチベーションが異なることから、継続的な研究は難しい。私は自らの経験から、研究室内で異分野融合研究が可能であり、これまで新たな技術を創出することができた。
ストリーミング再生が容易となった現代社会においても、映画館に足を運ぶ人は絶えない。これは時代に合った新たな映画が日々の努力から作られているからであり、研究者としても社会に還元できる研究を常に生み出せるように努めていきたいと日々考えている。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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倉科 佑太(くらしな ゆうた)
東京農工大学工学部機械システム工学科准教授
専門分野/超音波工学、ソフトマテリアル・塾員