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【Researcher's Eye】
鳴川 肇:あそびとかたち

2025/07/29

  • 鳴川 肇(なるかわ はじめ)

    慶應義塾大学環境情報学部准教授
    専門分野/建築、プロダクトデザイン

かたちの科学である幾何学をデザインに応用する研究開発を実践している。歪みの少ない地図や、台風で壊れないアウトドアテントなどを開発してきた。ここ数年は遊具の研究開発も多い。

2022年に学習価値のある遊具開発の依頼があった。例えば遊びながら数学の目が開かれるような遊具を、という依頼である。

遊びと遊び場のかたちの関係は例えば、おいかけっこでは、鬼に追い詰められない閉じたループ動線や分かれ道が多いほど面白い。そしてかくれんぼでは死角が多いほど面白いことが知られている。加えて筆者は最近まで娘に死ぬほど遊びの相手をさせられてきた。かくれんぼと鬼ごっこには自信があった。

その経験も踏まえ、トロイド[*1]という形状を採用した。鬼ごっこ的な視点では、この形状は上下左右に絶え間なく分岐し、閉じた動線ループをいくつも描ける。よって行き止まりがなく逃げ回れる空間だ。ただし逃げ回るうちに、巡り巡って鬼と鉢合わせになることもある。一方、かくれんぼ的な視点で解説すると、この空間はHP曲面[*2]が連続しつつ、空間を二分割している。鬼は自分がいる裏側にもう一つの世界が存在することすら気づかない。気づいたら元いた場所に戻っていたり、背中合わせに別の世界があるパラレルワールドのような空間体験は、トポロジーという数学につながる体験である。

そんな遊具を開発・設計し2024年に完成した[*3]。オープニングの日から子どもたちで非常に賑わっている。デザインの良し悪しは定量的に評価できないところがあるが、子どもの反応は忖度がなくストレートである。これまで筆者がデザインした遊具やおもちゃに見向きもされなかったものがある(涙)。だが今回の遊具は大いに喜んでもらえた。

筆者が開発・設計し2024年に完成した遊具

同時に遊んでいる子どもたちを観察していると、鬼ごっこよりも洞窟を探検するように上り下りしながら楽しむおひとり様が多いことや、お父さんが子ども以上に興奮して遊ぶケースが多いことなど発見も多かった。

現在はこの遊具を製作した遊具会社の「あそびのアンバサダー」に任命していただき「遊び」そのものを考える基礎研究が始まっている。

*1 厳密にはtoroidal polyhedronと呼ばれ,最小曲面で構成されているものはジャイロイドと呼ばれる。

*2 直線を捻りながら並べることで得られる曲面

*3 「ねじれクライム」ゆめが丘駅前(神奈川県)の商業施設「ソラトス」に設置されている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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