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【Researcher's Eye】
中村 真理:繫ぐ医療

2025/06/23

  • 中村 真理(なかむら まり)

    慶應義塾大学保健管理センター准教授

    専門分野/腎臓内科学

高血圧の患者さんを診察しているとき、症状や経過などを記録するために問診する。患者さんに「いつ頃から血圧が高くなってきましたか?」と伺うと、「若い頃からです。」と仰る。さらに詳しく話を伺うと、「大学生ぐらいかな? 働き始めて〇年経った頃かも?」と、今よりは"若い頃"とわかる。しかし人によって"若い頃"の幅が大きく違い、病気の始まる時期が定まらない。患者として来院するときには治療が必要なことが多く、問診では"若い頃"という言葉でまとめることが多い。

保健管理センターでは慶應義塾内の児童生徒、学生や教職員の健康管理の業務を通じて、病気の始まりが疑われる年代の人々とお会いするようになった。日本では児童生徒、学生、社会人の幅広い年齢層で毎年の健診を受けている。本人にとって毎年の健診は年中行事という連続体であり、徐々に血圧が高くなった場合は、その境界線を自分で把握しづらく、血圧が上がり始めた時期を正確に認識することは難しいはずである。

健康保険証とマイナンバーカードが紐づけられ、マイナポータルより過去5回分の医療情報がオンライン閲覧でき、自分の健診データなどの個人健康情報記録(Personal Health Record, PHR)に繫がるようになった。現在、慶應義塾内の児童生徒や学生のPHRは学校、大学ごとで個別に管理されているため、卒業するとPHRが分断されてしまう。高血圧などの生活習慣病は突然発症することは少なく、病気が始まる前からデータの揺れが発生するため、慶應義塾内で分断されているPHRを繫げ、一元的に管理ができれば病気の始まる時期が特定できる。

分断されることなく経時的に健診データを閲覧できれば、本人の健康への意識が高まり、"若い頃"から生活習慣を見直すきっかけになるだろう。保健管理センター医師、看護職、事務員皆で日々、疫学調査を行うことで健康教育や予防医療、治療のエビデンスに還元できるように試行錯誤を繰り返している。個人の健診データと慶應義塾内のネットワークを繫ぎ、多くの人々の健康と医療へ繋いでゆきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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