【Researcher's Eye】
猪狩 良介:メディア利用行動の変化
2025/06/11

私はこれまで、インターネット閲覧や店頭における購買行動など、行動データを用いた消費者行動の実証分析に関する研究を行ってきました。中でも最近関心があるのが、人々のメディア利用行動です。その理由は、私自身が昔からドラマが好きであること、また以前メディアデータを主に取り扱う企業に勤めていたことがあげられます。一昔前までは、動画コンテンツといえば地上波のテレビ番組が主流でした。しかし近年では、テレビ番組に加えて、放送後にインターネットで配信されるキャッチアップTV(TVer等)、Netflix等の動画配信サービス、YouTube等の動画共有サービス等、動画コンテンツの視聴方法は多岐にわたります。
最近行った研究として、新型コロナウイルス感染症とそれに伴う外出自粛による、同一人物のメディア利用の変化があげられます。2020年のメディア利用状況を振り返ると、緊急事態宣言が発出された2020年春(いわゆる第1波の時期)では、地上波テレビの総視聴時間は前年と比較して大幅に増加しました。中でも、「報道」「教育・教養」「バラエティ」の視聴が増えていました。また、インターネットやアプリの利用も同時期に大きく増加していました。外出自粛で暇を持て余した人がテレビやインターネットをいつにも増して利用するようになったと考えられます。しかし興味深いのは、2020年の夏以降も第2波、第3波とコロナ禍が続いていたにもかかわらず、メディア利用は徐々に減少し、年後半には前年とほぼ同水準に戻りました。コロナ禍が想像以上に長引いたこともあり、多くの人が新しい生活様式に適応し、日常生活に戻る方向に舵を切ったことが要因と考えられます。
コロナ禍におけるメディア利用の変化は特殊な例と言えますが、前述のようにメディアや動画コンテンツは年々多様化しており、それに伴い人々の利用行動も変化しています。しかしながら、地上波テレビ番組やキャッチアップTV、動画配信サービス等の視聴について、同一人物の行動データを継続的に取得することは難しく、これらを統合的に分析した研究はまだ少ないです。今後は、こうしたメディア利用行動の多様化や変化に対応して、研究内容も柔軟に発展させていきたいと考えています。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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猪狩 良介(いがり りょうすけ)
慶應義塾大学商学部准教授
専門分野/マーケティング、統計学