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【Researcher's Eye】
神野 潔:法学と歴史的思考と

2025/05/12

  • 神野 潔(じんの きよし)

    東京理科大学教養教育研究院教授・塾員
    専門分野/日本法制史

私の専門は日本法制史という(法学の中では少しニッチな?)分野で、特に御成敗式目などの鎌倉幕府法を中心に研究しています。学部時代に読んだ川島武宜『日本人の法意識』(岩波新書、1967年)から影響を受けて、明治期に西洋から継受した近代的な制定法と市民の意識とのあいだに存在する「ずれ」に関心を持ちました。その「ずれ」の正体を歴史的に見てみたいと考えたのが、この分野を選んだきっかけです。

研究において常に意識してきたことは、法学における法制史研究の意義についてです。その素朴でありながら難解な問いと向き合いたい(向き合うべき)と私が考えたのは、2000年に法制史学会で開催されたシンポジウム「法学における歴史的思考の意味」(『法制史研究』51号、2001年)に大きな刺激を受けたからです。著名な法学者たちが、特に実定法学との関わりの中で「歴史的思考の意味」について論じあったその内容に、法制史という学問が法学全般の中でどのような意味を持つのか、法制史の研究者にはそのことについての「説明責任」があり、学問自体を客観視して「振り返り」をしなければならないのだ、ということを突きつけられたような気がしました。

この「説明責任」を果たすための手がかりになればと考えて、私は今日まで2つのことを続けてきました。1つは(鎌倉幕府法の研究に加えて)法制史学の歴史そのものを研究することです。近代的な法学が日本に入ってきた明治・大正期に、「歴史的思考」はどのような意義を持っていたのか、それはどのように変遷して今に至るのか。この研究は、法制史学者を含む法学の先人たちに、「あなた方の頃はどうだったのか」と尋ねて回る旅のようなものだと思っています。

もう1つは、それぞれの視点・関心から「歴史的思考」を重視する、異なる分野の研究者と共同研究をするということです。このことを通して(これは「歴史的思考の意味」というよりは法制史学者の振る舞いの話かも知れませんが)法制史の研究者は実定法の研究者に対してもっと「歴史学者」であるべきであり、他の分野の研究者に対してはもっと「法学者」であるべきだと思うようになりました。これからも「法学における歴史的思考の意味」を問い直す営みを続けていきたいと思っています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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