【Researcher's Eye】
宮本 大輔:音の強弱による意味の変化
2025/04/23

私は現在、湘南藤沢キャンパスで使用する中国語教材を作成しています。その過程で中国語の面白さを再認識したため、ご紹介します。周知の通り、中国語は声調言語であるため、中国語の発音を表すローマ字の綴りが同じであっても、声調(tone)が異なれば、全く別のものを指します。
例:mǎi 买 買う、mài 卖 売る
yǎnjing 眼 目、yǎnjìng 眼镜 眼鏡
また、文で発話する際には、声調に加えてストレスの位置にも気を配る必要があります。なぜなら、ストレスを置く位置によって文の内包的意味が若干変化するからです。例えば、例文(1)は、どこにもストレスを置かずに発した場合、「彼は私のケーキを食べた」という事実を描写する文となります。ですが、aのように" tā(他)"にストレスを置くと、ケーキを食べたのが、他の誰でもない「彼」であることが強調されます。また、bのように" wǒ de(我的)"にストレスを置くと、他の者のケーキではなく、「私の」ケーキが食べられてしまったという意味になります。そして、cは若干特殊な例ですが、" chīle(吃了)"にストレスを置くと、本来食べるべきではないものを食べてしまったという意味になります。
(1)他吃了我的蛋糕。
a Tā chīle wǒ de dàngāo.(彼が私のケーキを食べてしまった)
b Tā chīle wǒ de dàngāo.(彼が私のケーキを食べてしまった)
c Tā chīle wǒ de dàngāo.(彼が私のケーキを食べてしまった)
第2外国語としての中国語教育では、語法と語彙の習得に重点が置かれ、上記のような内容が扱われることはありません。そのため、学習者はこういった概念に触れる機会がないまま学習を終えるか、実際に中国に赴き、中国語ネイティブとコミュニケーションを取る中で体得することになります。
もちろん、語法と語彙は中国語を学習する上で不可欠な要素です。しかし、ネイティブとコミュニケーションを取る際は、当該言語の言語習慣を理解した上で、発話の内包的意味をくみ取り、不要な摩擦を回避することが肝要です。
したがって、発話とその内包的意味を音声の面からも学ぶことができる、より実践的な中国語教材を作成する必要があるのです。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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宮本 大輔(みやもと だいすけ)
慶應義塾大学総合政策学部准教授
専門分野/社会言語学、中国語教育