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【Researcher's Eye】
山口 真一:情報社会の未来を拓く

2025/04/16

  • 山口 真一(やまぐち しんい ち)

    国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授・塾員
    専門分野/社会情報学、計量経済学

現代社会は、情報技術の急速な進歩により、かつてない社会の変化に直面しています。たとえば、スマートフォンを手に取れば、ソーシャルメディアを通じて瞬時にニュースが流れ込み、誰もが情報を発信できる「人類総メディア時代」になりました。私たちの生活は格段に便利になった一方で、偽情報や誹謗中傷が社会に及ぼす悪影響は深刻化しています。私の研究では、偽情報は、特に多数を占める流動的な支持層の考えを変えやすく、選挙に影響を与えうることが分かっています。ソーシャルメディアに投稿された言説が瞬く間に拡散され、民主主義にも影響を与えるのです。

このような変化に対応するため、私は計量経済学の手法を用いて、テクノロジーの進化が人間の行動や社会構造に与える影響を研究しています。ソーシャルメディア上の諸課題に留まらず、生成AIやサイバネティック・アバターの普及が社会に与える影響、プラットフォーム企業の戦略、青少年とテクノロジー、データ資本主義時代の新たな経済法則やビジネスモデルなど、多様なテーマを横断的に扱っています。ムーンショット型研究開発事業では、サイバネティック・アバターなどの先端技術がどのように私たちの暮らしを変えるか、技術受容は何によって決まるかなどを、2050年という未来を見据えて社会科学的な視点から検討しています。

私が考える研究者のミッションは、「人々の生活の質や幸福感の総和としての社会的厚生の最大化に寄与すること」です。そのために、学術研究での知見を活かし、政策立案に対してインプットを行い、社会に幅広く情報発信する―この3つの活動を循環させることが重要だと考えています。実際に、企業や政府との共同研究を通じて得られた成果を政策提言につなげると同時に、メディアや書籍によって社会に広めることで、より良い社会の実現を目指しています。

情報技術の進歩は、私たちの日常を豊かにする一方で、多くの課題も引き起こします。そしてAIをはじめとする技術は急速に進歩しており、将来的に私たちのつながりはより密接になり、広がっていくでしょう。私は研究者として、学問と実践を往還させながら、複雑化する社会構造に対してエビデンスベースの解決策を提供することで、より豊かな情報社会の未来を築きたいと考えています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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