【Researcher's Eye】
河塚 悠:「誰か」のための意思決定
2025/02/25

私たちは、毎日さまざまな意思決定を行っています。私がこれまで行ってきた研究は、製品・サービスを購入する者と消費する者が同一であることを前提とした購買や消費に関する意思決定でした。しかし、ここ数年、出産・育児、介護を機に、購入者が消費者でない場合における購買意思決定に関心を抱くようになりました。親として子のための、あるいは子として親のための意思決定をするなかで、時折、解を導き出す難しさを感じています。そこで、なぜ自分以外の「誰か」のための意思決定が難しいのかを考え始めました。
「誰か」のための意思決定の難しさは、この意思決定が「他者」のためのものである以上、“他者視点”の情報が無視できないことに起因しているのではないかと考えています。購入者は、他者が自身の選んだ製品・サービスに満足している姿を見ることで、自らの意思決定に満足感を抱きます。そのため、購入者が満足のいく意思決定をするためには、他者が満足するだろう選択肢を選ぶことが必要となり、購入者は自身の選択肢評価だけでなく、他者の選択肢評価も考慮しなければなりません。
しかし“他者視点”を考慮することで、意思決定は複雑化すると考えられます。例えば、購入者と他者の間で選択肢評価が異なる場合、購入者は他者との関係の長さや深さなどを考慮しながら、どちらの評価を重視するかを決めなくてはなりません。また、購入者が他者の選択肢評価を入手できない場合(例:他者が選択肢の評価能力の低い未就学児や高齢者である、あるいは購入者が他者の承知なく購買を検討している)、購入者が他者視点の選択肢評価を予測しなければなりません。この予測の難易度は、意思決定の対象の特性(例:ハンカチや菓子のような有形財、あるいは保育や教育、介護や医療のような無形の信頼財)やその対象に関する購入者の知識量によっても変わると考えられます。このように「誰か」のための意思決定は、購入者が他者を思うがゆえに、さまざまな要因が重なり合って難しくなっていくのです。
私たちが毎日行っているさまざまな意思決定の中で、「誰か」のための意思決定は、その一例にすぎません。今後も、消費者の多様で複雑な意思決定に目を向け、消費者理解を深化させる研究に邁進したいと考えています。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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河塚 悠(こうづか はるか)
成蹊大学経営学部准教授・塾員
専門分野/消費者行動論、マーケティング