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【Researcher's Eye】
稲田 周平:管理工学から経営管理へ

2025/01/21

  • 稲田 周平(いなだ しゅうへい)

    慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授
    専門分野/ 生産政策

慶應義塾大学の理工学部から現在の所属に異動して、もうすぐ3年目を迎えようとしています。もともとは、工場の生産性を高めるための方法論を長く研究していました。知人からは、理工学部からビジネススクールに移った理由をしきりに尋ねられますが、“面白そうだったから”とお茶を濁すことが大半です。本音のところは、日本の製造企業が持続的に成長していくための考え方や方法論を、文系・理系の垣根なく広く探ってみたいとの想いから異動を思い立ちました。

日本の製造企業の平均寿命は40年弱と言われています。卸売り業や保険・金融業といった他の事業分野に比べて製造企業の寿命は長い方ですが、それでも40年程度にとどまります。企業が長期にわたって存続していくことは、それほどに難しいことなのです。

幸いにも、経営管理研究科に移ってからは、工場を訪問し企業経営者やマネジメント層から話を伺う機会が大幅に増えました。この中には、業績を着実に向上させている企業もあれば、業績が伸び悩んでいる企業もあります。経営学の中では「両利きの経営」と呼ばれる経営理論が以前から提唱されています。企業経営者がこの理論を知っていたか否かは別にして、前者の企業では、両利き理論の核である経営の「深化」と「探索」がバランスよく実践されていることを強く感じます。また、経営理念をはじめとする企業の運営方針が製造現場にも浸透し、それに合致した現場作りが全社を挙げて行われていることも特徴の1つです。いずれにしても、短期的な経営の浮き沈みに一喜一憂せず、長期的な視点での経営がしたたかに行われており、これが高いレベルでの経営の原動力になっているように思われます。

現在の私の問題意識は、こうした成功企業の知見をどのように他の企業に展開し、経営の質の向上に結び付けるかという点にあります。研究者の視点から、企業の実情に基づいた理論的な枠組みを構築することで、より多くの製造企業が持続的な成長を遂げられる道筋を見出したいと考えています。新たな活動拠点に異動して、私の研究の視野も多いに広がりましたが、一方で、勉強しなければならないことも大いに増えました。より多くの製造企業が持続的な成長を遂げられる方法論を地道に探っていきたいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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