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【Researcher's Eye】
森田 香菜子:社会システムの変革

2024/12/16

  • 森田 香菜子(もりた かなこ)

    慶應義塾大学経済学部准教授
    専門分野/環境ガバナンス・ファイナンス

私はこれまで特に気候変動や生物多様性の問題について、国連の政策と科学に関するプロセスに関わりながら取り組んできた。私がこの分野の研究を始めた20年前と比べて、今は民間セクターの気候変動や生物多様性問題への関心も大きく高まったように感じる。一方で、気候変動などの地球環境問題は深刻化しており、もう待ったなしの状況である。持続可能な社会を実現するためには、個々の環境対策の推進だけでなく、短期間で社会システムを変革することも求められており、それをどう実現できるか研究を通じて日々考えている。

気候変動の分野を見ても、国際的なガバナンスのスコープは昔よりも広がった。これまで気候変動の政策的議論は主に1992年に採択された「国連気候変動枠組条約」の下で行われ、1988年に設立された国際的な科学的アセスメント組織である「気候変動に関する政府間パネル」が政策策定に利用できる科学的情報を提供してきた。これらを軸としながらも気候変動のガバナンスのスコープは広がっており、例えばG20、G7などの国際的枠組、他の国際環境条約、民間企業・金融機関主導や官民協働のイニシアティブ、国をまたいだ都市間のイニシアティブなど多様な場で気候変動に関して議論されるようになった。また、気候変動について、持続可能な開発、生物多様性、防災、人権、労働、安全保障、貿易、ファイナンスなど、これまで以上に幅広い社会・経済の問題との関わりから議論されるようになった。

そのため、環境分野の研究者も環境だけでなく、他の社会・経済的側面を主とする政策的議論も理解することが必要となっている。この夏にはスイスで国連貿易開発会議や国連欧州経済委員会の会合に参加し、持続可能な社会への移行の中で誰一人取り残さない「公正な移行」、デジタライゼーション、貿易、人権、戦争、安全保障などの切り口から環境対策のあり方について調査してきた。

持続可能な社会実現のための社会システムの変革は容易ではない。しかし、昔よりも問題解決のための方法や技術などは増えており、様々な制度や行為主体(国際機関、政府、民間企業、金融機関、非政府組織、市民など)との関係性も含めて、どのように社会システム変革につなげられるか引き続き研究していきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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