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【Researcher's Eye】
菊地 晴久:古くて新しい天然物化学

2024/10/22

  • 菊地 晴久(きくち はるひさ)

    慶應義塾大学薬学部教授
    専門分野/天然物化学、医薬品化学

浦和共立キャンパスにある薬用植物園をご存じでしょうか。私が2021年に薬学部に着任してから薬用植物園園長を拝命しております(普段は芝共立キャンパスに居るため、植物園の管理等は専門の職員の方にお願いしています)。薬用植物園には、約3,500平方メートルの敷地内に日本薬局方収載生薬の基原植物や身近な薬草・毒草など800種以上の植物が栽培されています。一般公開もされていますので興味のある方はぜひお越しいただければと思います。個人的には薬用植物の花々が美しく咲く春から夏にかけての時期がオススメです。

さて、私の専門領域は天然物化学であり、これまで植物やカビ・細菌などの微生物などの生物が産生する化合物から医薬品のもと(創薬シーズ)を見出すという、天然物創薬研究を行ってきました。このような研究は、一見わかりやすく、また役に立つ研究のように見えます。しかし、これまで多くの研究者が精力的にこのような研究をおこなってきた結果として、近年では天然化合物から新しい創薬シーズを発見することが困難になっており、伝統的ではあるけれども古い研究の考え方であると言われてしまうこともしばしばあります。

しかし、植物や微生物などの生物は我々人類が考えつかないような化学構造をもった天然化合物を産生しており、その化学構造の独特さ・複雑さが創薬を行う上で重要なのは今でも変わりません。私たちは、有機合成化学や、化合物を生み出す植物・微生物の遺伝情報、そして生成AIなどによる構造生成器等、最新の方法を天然物化学と組み合わせることで、従来のままの研究では見つけることができないような、画期的な創薬シーズを見出す研究を行いたいと考えています。

先に述べた薬用植物園のあるキャンパスにある植物園の管理棟などの建物はやや古く、昭和の香りがする趣のある雰囲気となっていますが、研究を行うために必要な植物材料の供給を行う上で必要不可欠な場所です。また最近では少し整備を行い微生物培養の場としても活用できるようになりました。以前からある知識や立地などを上手く活用しながら、最新の手法を用いて画期的な研究を行う。このような「古くて新しい天然物化学」を実践し、創薬などの社会に役立てる研究をこれからも進めていきたいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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