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【Researcher's Eye】
海住 英生:融合研究へのチャレンジ

2024/08/28

  • 海住 英生 (かいじゅう ひでお)

    慶應義塾大学理工学部物理情報工学科教授
    専門分野/磁気物理、スピントロニクス

現在、情報爆発時代が到来していると言われています。先日発表された「世界人口白書2024」によりますと、2024年の最新の世界人口は81億人を超えました。世界のスマートフォン・携帯電話の累計契約数は、2023年では約85億に達し、全世界で利用されるデータ情報量は2025年には180ゼタバイトに達すると予測されています。

「ゼタ」は兆の10億倍で、10の21乗を示します。つまり、180ゼタバイトは、10の23乗程度となります。一見、途方もない数字に思えますが、物性を専門とする私たちから見ると、そこまで大きいとは思えません。1立方センチメートルの物質の中には、約10の23乗個の電子が含まれているからです。つまり、この1つひとつの電子に情報を記録できれば、1立方センチメートルの小さな物質に、現在の地球上のデジタルデータをすべて格納することができます。

電子への記録方法として、近年、電子のスピンを利用する方法が提案されています。電子には、回転運動に相当する「スピン」という自由度があります。このスピンには、右回りと左回りがあります。磁石で言うと、N極とS極に対応します。このN極とS極をデジタルデータの「1」と「0」に対応させるアイディアです。このようなスピンと現代の情報基盤技術の1つであるエレクトロニクスを「融合」させた新しい分野が私たちが開拓しているスピントロニクスです。

ここで私がお伝えしたいことは、今回はスピントロニクスのことではなく、「融合」の大切さです。電子や光は、よく知られている通り、波で記述できます。波は振幅だけでなく、位相を持ちます。位相が揃った場合は、例えば、電気回路でいうと、共振・共鳴を起こします。光で言うと、レーザー発振を起こします。一方で、位相が少しでもずれると、それらの効果は小さくなり、場合によっては消えてしまいます。これは、研究でも同じです。1つひとつは面白い内容でも、それらがうまく融合しないと、新しい発見は生まれません。一方で、うまく融合すると、大発見が生まれ、そこから新しい学際領域が誕生する場合もあります。人と人の相性、自分の中での心と体の相性、何でも同じと思います。

位相を揃えることはとても大切です。人類・社会に貢献し、世の中を豊かにするために必要な要素と思っています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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