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【Researcher's Eye】
清水 たくみ:生成AI時代の知的生産

2024/07/22

  • 清水 たくみ(しみず たくみ)

    慶應義塾大学総合政策学部准教授
    専門分野/ 経営情報学

この文章は生成AIとの共著である。私はテクノロジーと組織の共進化について研究しており、生成AIが個人や組織の知的生産をどう変えるかについても関心を持っている。生成AIはタスクを補助・自動化してくれる便利な道具としての役割を超えて、人間と機械が協働するインターフェースとしての役割を担う可能性を秘めたものと考えている。

最近、あるグローバル企業の幹部による業務での生成AI活用についての記事を読んだ。当該記事ではその幹部がいかに生成AIという道具を使いこなしているかが語られていたが、筆者には生成AIを同僚や秘書(つまり一緒に働く人間)とほぼ同列に捉えて協働しているように感じられた。当事者の主観とは別に、客観的に眺めた実態として、私たちが人間と機械・アルゴリズムを並列に捉えて知的生産を行う時代が到来しつつあることを示唆しているように思う。

そのポテンシャルを体感するために、本稿も生成AI(ChatGPT)が出力した文章に手を入れることで執筆を試みた。しかし結果として、ほとんどすべての文章を自身で一から書き起こしている。ChatGPTは複数の重要なトピックをあげ、プラスとマイナスの両面に配慮したそつのない原稿案を出してくれたが、それをベースにすると文章が表面的になり、なおかつ自分のボイスがうまく伝わらない。筆者のまわりでも、生成AIを自身の知的生産に組み込むことを真剣に捉えている人ほど、その限界を指摘する人が多い。

ただ、これは一概に生成AIのクオリティが低いことを意味しない。実際に筆者はコーディングや英文校正など様々な場面で生成AIを使用しており、それらは自身が一から作り上げるよりも早くかつ正確な仕事につながっている。おおよそ正解・不正解や優劣が定まり、それを自身で確認・検証できるタスクに関しては、極めて有効に活用できる。一方でエッセイ執筆のようなタスクになった際に、テーマの案出しなどを超えて実際にそのまま使える文章が出てくるかというと、なかなか難しいようにも感じる。生成AIのさらなる進化以上に、筆者(人間側)も生成AIとの協働方法を進化させる必要性があることを痛感した。今後AIが広く仕事・組織・経営等に浸透していく際のハードルは、機械の側ではなく人間の側にあるのかもしれない。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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