三田評論ONLINE

【Researcher's Eye】
安田 直樹:企業行動の人間らしさ

2024/06/12

  • 安田 直樹(やすだ なおき)

    立教大学経営学部・ビジネスデザイン研究科准教授・塾員
    専門分野/マクロ組織行動論

経営学の研究方法のひとつに、企業の行動に関するデータを分析してそこから企業行動の法則を見つけるというアプローチがあります。この企業行動のデータから、ある種の「人間らしさ」を垣間見ることができます。

例えば、企業がある制度を導入する時、一般にはその企業にとって経済的合理性があることが前提となりますが、他社がやっているからという社会的な理由で行動することが知られています。同業他社が副業制度を導入したからという理由で、自社でも導入しようとするようなケースです。企業の戦略の視点で考えてみると、これまで成功してきた既存事業に集中することで、環境が変化して柔軟に対応を求められる状況でもその変化に適応できず、既存事業にしがみついてしまうことがあります。環境が変化し過去の経験が活かせない状況にもかかわらず、過去の経験に頼ってしまうのです。これは一貫性とともに柔軟性も必要であるという意味で、組織が抱えるジレンマとも言えます。

このような企業の行動におけるある種の傾向は、プライベートであれ仕事であれ、私たち個人の行動に置き換えても同じことがいえます。「人間らしさ」の所以がここにあります。私たちの日々の行動は、他人から影響を受けている面があります。普段は気にしていなくても、行列ができているとそのお店に行きたくなる心理もそのひとつでしょう。また、仕事を進めていくうえで、これまで積み上げてきた過去の成功経験を否定して、新しいことに適応していくことは簡単ではありません。これまで培ってきたものを捨てるのは本当に難しいことです。

このように考えると、企業行動を理解することは人間の行動を理解することにつながります。その逆も然りで、人間行動を理解することで企業の行動に対する理解も深まります。組織は個人の集まりであり、組織の意思決定は人間によって行われることから、企業の意思決定に「人間らしさ」があるのは当たり前かもしれません。しかし、この企業行動に垣間見える「人間らしさ」に対して科学的にアプローチすることに経営学のひとつの面白さがあるのです。そしてそれらを、人間社会の本質を理解するきっかけにすることが重要だと考えています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事