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【Researcher's Eye】
今城 哉裕:哲学の違いを愉しむ

2024/05/23

  • 今城 哉裕(いましろ ちかひろ)

    東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻講師・塾員
    専門分野/音響細胞工学

私のメインの研究は音響で細胞を操作する技術の開発です。なので、本年からスタートした自身の研究室を“音響細胞工学研究室と名付けました。しかし、表面的なテーマに固執せず音響と細胞の関係を研究する上で関係するさまざまな技術を混ぜ合わせながら研究を進めています。これまで金属材料、高分子材料、流体、熱など色々な分野の方々にお世話になって研究を進めてきました。この間とある集まりに伺った時に、「AIの研究されてる方ですよね?」と話しかけられてびっくりしたことを覚えております。

広い分野の技術を学んでいることに加え、主要な研究歴だけみてもそれぞれ特色の異なる複数の学科を経験してきました。具体的には機械工学科(慶應義塾)で学位を取得し、医学部(東京女子医科大学)でのポスドクを経て、現在は精密工学専攻(東京大学)で講師を務めております。こういった経験を経て、さまざまな知識を得ることができたのはもちろんですが、各分野の哲学の違いを体験できたことが幸運だったと考えています。正義の違いと言い換えてもいいかもしれません。私が未熟だからですが、分野の違う方と話していると、深い話に到達した際にたまに話が食い違うことがあります。「良い」研究、「良い」仕事、そして「良い」教育の定義も必ずしも一致していないと感じます。今よりもさらに未熟な時はこの違いが理解できずに失敗してばかりでしたが、最近はやっとこの違いを“愉しめるようになってきました。

本執筆の機会をいただいて母校に想いを馳せ、違いを愉しめるようになった土壌は慶應での経験にあったと痛感しています。学生時代になんでもさせてくれた指導教員や学科、そして他学科の先生方、リーディング大学院(GESL=グローバル環境システムリーダープログラム)での経験、半年という短期間(早期修了に伴い慶應にて半年間ポスドクをするチャンスがありました)にもかかわらず受け入れて下さった先生、特任講師(他大学と兼務させていただいていました)として参加させていただいプロジェクト等……その他にも変なことをたくさんさせてもらい、いろいろな考えに触れるチャンスがありました。私の好きな言葉に「上からの恩は下に返せ」というものがありますので、学生たちにも違いを愉しむきっかけを提供できればと思っています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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