三田評論ONLINE

【Researcher's Eye】
花岡健二郎:蛍光プローブの開発に没頭して

2024/04/18

  • 花岡 健二郎(はなおか けんじろう)

    慶應義塾大学薬学部教授
    専門分野/ケミカルバイオロジー、分子イメージング

「蛍光」というと何を思い浮かべるでしょう。直ぐに思いつくものは、蛍光ペンかも知れません。私が大学生の頃、東京大学大学院薬学系研究科の教授であった長野哲雄先生が講義の中で(講義自体は薬物代謝学でしたが……)、入浴剤のバスクリンの緑色はフルオレセインという蛍光色素であると言っていたことを思い出します。こういったことから、単に蛍光=明るくキラキラする色といった印象を持っていました。

そういう意味でも、(大学院から蛍光を研究することになりますが)大学生の途中まではちゃんと蛍光を理解していなかったかも知れません。例えば、蛍光色素の粉末を水に溶かし、暗闇に放置しているだけでは明るい蛍光は観察できません(このこともちゃんと理解していませんでした)。蛍光というのは、蛍光色素が吸収する波長の光を照射することで初めて蛍光を発します。遊園地や水族館のアトラクションでブラックライトに晒されたときシャツが青白く光るのは蛍光だと思います。現在、我々グループでは、特定の生体分子を捉えて蛍光がoffからonに変化する機能を持つ蛍光色素(蛍光プローブといいます)の開発を行っています。20年前にはとりあえずつくってみて評価するといった泥臭いトライ&エラーが主流でしたが、現在では、蛍光プローブの高度なデザインが可能となり、様々な蛍光プローブが論理的に開発可能になっています。

生命科学研究において、現在、最も蛍光が重宝される場面が「蛍光イメージング」です。蛍光イメージングとは、例えば、蛍光プローブを生きた細胞の中に導入し蛍光顕微鏡によって観察することで、生きた細胞の中で起こっている生命現象をリアルタイムで観察する手法です。こういった技術によって、細胞の中に留まらず、動物の臓器内での様子も観察できるようになっています。このような生体内の観察を可能にする蛍光イメージングの重要性は、ノーベル化学賞が2008年に「緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見と応用」に、2014年に「超高解像蛍光顕微鏡の開発」に、2023年に「量子ドットの発見と合成方法の発明」に対して贈られたことからも窺えます。新たな蛍光プローブの開発研究では、これまでに見られなかった未知の生命現象を自分の目で見られるようになることがワクワクさせ研究の醍醐味となっています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事