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【Researcher's Eye】
柿沼康弘:慶應理工の秘めた魅力

2024/02/14

  • 柿沼 康弘(かきぬま やすひろ)

    慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授
    専門分野/ 生産工学

「慶應義塾大学理工学部の魅力ってなんだろう」。そんなことを考えることがよくある。東京大学は理系が6割、文系が4割、慶應は文系が7割、理系が3割という大きな違いがある。東大はマジョリティが理系、もともと国立で日本最高峰の大学であるから、国からの支援も厚く慶應に比べて獲得している研究費は10倍(それ以上?)違う。真っ向から「数」の勝負をしたら敵わない。

社会という角度からみたらどうだろう。これまでに優れた技術が常に勝ってきたかといえばそうじゃない。なぜその技術が必要か、その技術によって世の中がどう変わるかを多くの人に理解してもらえたものが勝ち残る。欧米の研究者はそのことを理解しているのか、常に話し合う場を求めている。学会があれば、仲間を集め、仲間を増やし、ランチ、コーヒーブレイク、ディナーで議論を交わしている。何をしているかというと、研究者によって研究の方向性は異なる。その研究のベクトルたちを、少しずつ自分の研究の目指す方向に揃えて新たな潮流となる大きなベクトルにつくり変えていくのである。そして、ベクトルが揃い始めたタイミングで、事前に練られた新コンセプト(例えば、Industrie4.0など)を基調講演などで披露し、その研究の方向性を確固たるものにするのである。

日本の理系研究者は、まじめで尖った研究をしている。しかし、世界的な研究のトレンドを築くことができる研究者はそう多くはない。なぜなら、研究能力に加え、人の繫がりをつくり出し、その中心に立って先導する「人間力」が必要不可欠だからだ。実は、そういう人材を巧みに生み出しているのが、慶應理工ではないだろうか。例えば、学部1~2年生は日吉キャンパスで他学部の学生同士がともに学ぶ。文系人材との深い交友関係が理系人材の人間力を高めるわけである。そこに独立自尊、半学半教といった慶應義塾の精神がインプットされることで更に人間力に磨きがかかる。そして修士、博士と進み、世界トップレベルの研究を通して研究能力を養えば、人間力を兼ね備えた研究者の卵が産まれる。これが他に類を見ない慶應理工の秘めた魅力だろう。

私も慶應理工で学び、研究者になった。そんな私の今の挑戦は、自分たちの研究を世界のトレンドにのせることだ。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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