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【Researcher's Eye】
浅野敬志:サステナビリティと会計の未来

2024/02/08

  • 浅野 敬志(あさの たかし)

    慶應義塾大学商学部教授
    専門分野/財務会計、経営分析

日経統合報告書アワードの審査員を務めて今回で3年目になる。審査対象の報告書には100ページを超える大作も含まれており、作成者の熱意と努力が感じられ、毎年心待ちにしている。中でも、最も楽しみにしているのは、トップメッセージだ。経営トップの方々が、組織運営における苦労や工夫、長期ビジョン、成長への投資、人材の生産性向上、従業員との意識共有など、企業の持続可能性に不可欠な要素について情熱を持って語る姿勢に感銘を受ける。経営トップのメッセージには人生の貴重な教訓が詰まっており、私自身も新たな気づきをいただいている。

近年、トップメッセージにおいても、サステナビリティに関連する記述が増えていると感じている。こうした情報やデータには、会計基準のような明確な作成基準が存在せず、信頼性や比較可能性に課題があることも事実である。また、ステークホルダーの関心事は多岐にわたるため、情報開示の負担も増大している。それでも、企業はステークホルダーの期待に応えるため、積極的に情報開示を行っている。ステークホルダーからのフィードバックを受けて社会の変化を把握し、自社の役割や社会への貢献について議論し、その結果を情報開示に反映させる姿勢も見受けられる。情報開示は、単なる報告義務ではなく、企業行動の変容を促進する強力な手段となっている。

近年では、サステナビリティ情報を貨幣換算し、財務情報に組み込む試みが見られる。例えば、インパクト加重会計は、製品・サービス、組織・雇用、環境の3要素に対して、プラスとマイナスのインパクトを測定し、貨幣換算した値を財務諸表に反映させるアプローチだ。現行の会計は環境問題を十分に取り込めず、人的資本を資産としてバランスシートに計上できない制約がある。また、計算される利益は全てのステークホルダーではなく、株主に帰属するものとして扱われる。しかし、インパクト加重会計は、環境問題などの外部性を内部化し、全てのステークホルダーを考慮し、経済的価値だけでなく社会的価値も重視する。サステナビリティを中心に据えることで、会計の課題が浮き彫りになる。サステナビリティは、将来的には会計の枠組みそのものを変革する可能性を秘めており、会計の進化に寄与するかもしれない。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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