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【Researcher's Eye】
武田真理子:研究・教育拠点としての庄内地域

2024/01/22

  • 武田 真理子(たけだ まりこ)

    東北公益文科大学教授・塾員
    専門分野/社会政策、ニュージーランド

慶應義塾大学の知的支援により2001年4月に山形県庄内地域に開学した東北公益文科大学に勤務して23年が経過した。酒田市に開設した公益学部は2022年度末までに3408名の卒業生が巣立ち、慶應義塾大学先端生命科学研究所とともに鶴岡タウンキャンパスを拠点としている大学院は165名の公益学修士と5名の公益学博士を輩出している。

庄内地域は日本海に面し、鳥海山、月山(がっさん)に囲まれた豊かな平野が広がる地域で、かつて北前船の交易により港町として栄えた酒田市と、庄内藩の城下町として発展した鶴岡市を中心都市とする2市3町から構成される。人口25.5万人、高齢化率は37%を超え、若者流出、コミュニティ機能の低下、産業等における担い手不足など、地方都市に共通する課題を多く抱えている。一方、雄大な自然と密接に結びついた山岳信仰、祭りや伝統芸能など、独自の文化が継承され、鶴岡市は日本初の「ユネスコ食文化創造都市」に加盟が認められている。本学はこうした地域の次代を担う人材育成の拠点として全自治体、産業界を挙げ公設民営方式により開設された。

大学開学時のスローガンは「東北から俯瞰せよ」であった。東京一極集中に歯止めがかからない状況であるが、地方に根を下ろして暮らしていると、社会課題の解決や新しい価値の創造は様々な地域を基点にして生まれるというシンプルな真実に気づく。例えば庄内地域の現在の豊かさは、荒れ地の開発、厳しい気象条件への対応といった難問に直面した江戸時代の先人たちが、地域を一体的に捉え、次世代をも視野に入れた長期的視点と想像力でもって、新しい知恵と科学技術を開発し、堰や水路の開削、海岸砂防林の植林を実行したことにより実現した。33キロにわたる「クロマツの美林」の植林に貢献した商家の記録によると、封建社会であっても多様な身分の人びとが協力し合って偉業が成されたことが窺える。持続可能な社会とは、このような営みの価値を理解し、継承する人々がいて成立することに気づかされる。

現在も新しい社会実装が日々生まれている。その中の1つに先端生命科学研究所が独自に開発したメタボローム解析技術とその活用がある。私自身も「公益学の確立」と「大学まちづくり」を掲げる大学の一員として研究と教育実践の成果をこの地から発信していきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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