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【Researcher's Eye】
保田隆明:収益とサステナブルの間

2023/12/21

  • 保田 隆明(ほうだ たかあき)

    慶應義塾大学総合政策学部教授 
    専門分野/コーポレートファイナンス、ESG

オールバーズ(Allbirds)のスニーカーをご存知だろうか? スニーカーは一般的には生産工程における石油への依存度が高いが、同社の商品はウールや木など再生可能な素材を中心とし、環境にやさしい。日本にも東京と大阪に3店舗存在し、オンライン販売もしている。あるいは大豆由来などの代替肉(植物肉)のハンバーガーを食べたことはあるだろうか? 通常のハンバーガーと食味はほとんど変わらない。代替肉も環境への負荷が比較的低いと言われており、また、動物を殺生しなくて済む。これら商品はESGのE(環境)に配慮した商品である。ESGには、近年金融市場でも消費市場でも関心が高まっており、投資家はESGを加味した投資をすることが求められ、消費者の購買行動にもESGは影響を与えると各種アンケート調査で明らかにされている。

オールバーズは2021年に、そして、代替肉の製造企業であるビヨンドミート(Beyond Meat)は2019年にそれぞれNASDAQで株式上場(IPO)した。上場当初は投資家から好意的に迎え入れられ、両社の株価は上昇したが、そのモメンタムは長くは続かず、今や両社とも株価はピーク時の1割以下の水準である(2023年11月時点)。社会にはポジティブなインパクトを、そして株主にはリターンを与えるという概念は理想的であり、新しい資本主義が求める姿である。しかし、現実は、株式投資家は気が短く、両社の黒字化達成を悠長には待ってくれなかった。両社の売上高も、実は当初見込みほどには伸長していない。消費者の行動変容も十分には付いてきていないということになる。

企業活動や商品をグリーン化、サステナブル化すべきという意見に異を唱える投資家、消費者は少ないはずだ。しかし、どのように企業活動のシフトを支援するかについては、コンセンサスがまだ存在しない。これまで数多くのイノベーション、社会変容をベンチャー企業が主導してきた一方、グリーン化、サステナブル化を標榜する上記ベンチャー企業2社の苦悩を見るにつけ、人々の利便性の圧倒的向上を伴わない概念としての社会的価値観のシフトは、ベンチャー企業では荷が重いのかもしれない。では、それはビジネス界のどの主体が主導的に行っていくべきなのか、このモヤモヤが次なる研究の源泉となる。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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