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【Researcher's Eye】
木村太一:評価とバイアス、その解消

2023/11/27

  • 木村 太一(きむら たいち)

    慶應義塾大学大学院経営管理研究科専任講師
    専門分野/ 管理会計

私の専門は管理会計、特に業績評価です。近年では、主観的業績評価の問題に関心を持って取り組んでいます。

業績評価の基本は、客観的業績評価と呼ばれるものです。これは売上やコストや利益などといった客観的な指標を用いて、従業員の業績を評価しようというものです。客観的な業績とインセンティブを結びつけることで、従業員を動機づけることを意図しています。ただし、客観的業績評価にはデメリットも指摘されています。たとえば、営業部の従業員の業績を売上ノルマ達成率のみで評価しようとしたら、当該従業員は無理な営業活動をしてでもノルマを達成しようとするかもしれません。一時的にノルマを達成できたとしても、そのような営業活動をする企業の評判は低下するでしょう。

そこで、客観的な指標による業績評価の欠陥を補うために注目されるのが、主観的な業績評価です。上司が部下の働きぶりを主観的に判断して評価を下すことで、客観的な指標による評価では見落とされがちな側面も評価に組み入れることができるのです。ただし、これには、評価結果にバイアスが入り込むデメリットがあります。あくまで評価者による主観で評価が決まるため、意識的あるいは無意識的に評価が甘くなってしまったり(寛大性バイアス)、皆に似たり寄ったりな評価が付いてしまったりする(中心化バイアス)のです。

バイアスを解消するため、近年、キャリブレーションという実務に注目が集まっています。これは、直属の上司が1次評価をした上で、複数のマネジャーでキャリブレーション委員会を構成し、複数の評価結果を比較検討して、それぞれの評価が妥当なのかどうかを再検討するものです。キャリブレーションは、評価の「目線合わせ」「摺り合わせ」「調整」などを意識して行われるもので、必要があれば1次評価の結果が書き換えられることになります。

キャリブレーションによって主観的業績評価の問題が解決するのかはわかりません。実際、近年公刊された実証研究では、キャリブレーションを導入することで、寛大性バイアスが緩和される一方で、極端な評価が調整されることで中心化バイアスは悪化することが指摘されています。業績評価に関しては、いまだにより良い制度設計を目指して試行錯誤が行われている最中なのです。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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