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【Researcher's Eye】
米倉大介:はげないメッキ

2023/11/16

  • 米倉 大介(よねくら だいすけ)

    徳島大学大学院社会産業理工学研究部理工学域教授・塾員
    専門分野/表面処理、材料加工

私の専門分野である表面処理の一部にコーティング処理があります。これは金属をはじめとした基板材料に窒化物や酸化物等の極薄い表面層をコーティングすることによって、基板材料の機能を維持しつつ、材料の高機能化や新しい機能の付与を行うものです。当然のことながら、コーティング層がはがれてしまうとその機能は失われます。

さて、大学を取り巻く環境はここ20年、とりわけここ数年で激変しています。その変化の1つに、入学する学生の傾向の変化があります。地方国立大学に勤務する私の周りでは、入学生の基礎学力の低下を危ぶむ声が増加しているように感じられます。

入学生の傾向に変化が生じてきた理由には様々なものがあります。その最大の理由は少子化でしょう。18歳人口は平成4年度の205万人をピークに減少が始まり、現在では112万人ほどです。これに対し、国公私立の4年制大学入学者は平成4年度の54万人から徐々に増加し、平成12年度以降はおおよそ62万人で推移しています。要するに30年前を基準にすれば入学生の平均的な基礎学力が低下しているのは当然のことなのです。

その一方で、社会からの要請はますます多様化・高度化し、学生には以前より多くの能力の修得が望まれるようになっています。国際化、グローバル化、地方創生、イノベーション、アントレプレナーシップ、データサイエンス、分野横断、異分野融合、トランスファラブルスキルなど、様々な事柄が次々と提言されてきています。これらの事柄が提言されるたび、大学は新しい教育体制を整えることが求められています。私もここ10年ほど大学内の教育改革に関する業務に追われ、改組やそれに伴う教育体制の改革で四苦八苦しています。そして、これら次々と現れる新しい取り組みは、一部の学生の中で消化不良を起こし、基盤となる専門分野の基礎知識等の修得にも影響が及んでいる感が否めません。

コーティングの分野では、さまざまな薄膜を組み合わせた多層膜に関する研究が増加しています。学生の教育に際しても、各専門分野の基盤を維持しつつ、時代に即した様々な知識・技能を重層的に付与し、それらが容易にはがれ落ちない仕組みづくりが重要になるのだろうと感じています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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