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【Researcher's Eye】
池田直史:ESG投資は高リターン?

2023/11/09

  • 池田 直史(いけだ なおし)

    日本大学法学部准教授・塾員
    専門分野/ ファイナンス

近頃、資産運用のスタイルとして、ESG投資という言葉を多く見かけるようになってきました。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとったもので、ESG投資とは、環境や社会に配慮し、適切なガバナンス(企業統治)体制を整えている企業を選別して投資を行うことを言います。ESG投資が盛んになったことを受けて、企業サイドもESGに配慮し、その取り組みを積極的に発信するようになってきています。

インターネット上の情報などをみると、ESGに配慮した活動を行う企業は、長期的に企業価値が向上するため、ESG投資のリターンは高くなると言われることが多いようです。また、それと同時に、ESGに配慮する企業はリスクが低いという指摘も多く見られます。

しかし、ESG投資のリターンは本当に高くなると言えるのでしょうか。今の時点で誰もが、ESGに配慮する企業の価値が長期的に向上することを知っているならば、この企業の株式には既に買い注文が殺到しているでしょう。そのため、ESG活動による将来の企業価値の向上は、今の株価に織り込まれ、既に株価は高いはずです。このことは購入時の株価が高いことを意味するので、ESG投資のリターンは高くなると簡単に結論付けることはできません。また、ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンの原則から考えると、ESGに配慮する企業のリスクが低いならば、むしろESG投資のリターンは低くなると考えられます。このことから、ESG投資のリターンは高くなると主張するのは、実はなかなか難しそうです。

それだけでなく、ESGに配慮した活動が企業価値を向上させるという証拠を示すことも容易ではありません。なぜならば、たとえESG活動の水準が高い企業ほど企業価値が高いという相関関係が観察されたとしても、企業価値が高くて余裕のある企業ほど積極的にESG活動を行っている可能性があるためです。ESG投資が企業のESGに配慮した活動を促すだけでなく、ESG活動が企業価値を高め、その結果、ESG投資のリターンも高くなるという主張はとても魅力的です。しかし、それを鵜呑みにすることなく、冷静に議論を整理する必要があるように感じています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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