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【Researcher's Eye】
水谷正義:マテリアルミメティクス

2023/06/26

  • 水谷 正義(みずたに まさよし)

    東北大学グリーン未来創造機構グリーンクロステック研究センター教授・塾員
    専門分野/生産・加工学

研究室を運営する立場になり、研究について改めて深く考える時間が増えた。

私の専門は生産・加工学であり、いわゆるものづくりの研究を行っている。加工やものづくりからは多くの人にとって職人や技能といった“硬い”言葉が連想されると想像できるが、まさにそれらを基盤として日本は世界を牽引している。

一方、IoTやAIといった“やわらかい”言葉を交えたものづくりとなるとそのポジションを諸外国に明け渡しているような印象が拭えない。例えば日本発の「Society5.0」とドイツ発の「Industry4.0」、どちらの印象が強いだろうか?じつは“硬い”、“やわらかい”を問わず日本は世界でトップレベルであるのに……、歯痒いところである。

このあたりの話にも思うところがあるが、その話はまた別の機会にして、私はそうしたものづくりの技術を利用した「機能を生み出すものづくり」に挑戦している。

バイオミメティクス(=生物模倣)の根幹でもあるが、生物たちはその進化の過程で環境に対応し自身を“変化させることでさまざまな機能を持つ。

こうした生物たちを模倣し、材料に“変化”を加えることで生物たちと同じように、材料自身にさまざまな機能を与えようとしているのが私の研究であり、今までに多くの機能を生み出してきた。まさにものづくりが「図面」を飛び出した瞬間である。

さて次に何を考えるか? 1つはそうした機能を生み出すプロセスをいかに最適化するか、あるいは自動化するかなど、“やわらかい”ものづくりへの展開である。プロセスDX、もちろんここは必須であろう。すでに動き出している。

では他には? 皆さんiPS細胞をご存じであろう。細胞に、ある遺伝子を組み込むことで生体内環境に応じて所望の組織に成長できる万能細胞である。待てよ、じゃあ“材料”を万能化できないだろうか? つまり、材料に何かを組み込む(手を加える)ことで使用環境に応じて所望の機能に成長できる“万能材料”を生み出せないだろうか?

《マテリアルミメティクス(=材料模倣)》、これは私の造語であるが、ヒトを含めた生物たちが材料の“成長”を模倣し始めたら面白い。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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