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【Researcher's Eye】
小沢和彦:お手本について

2023/06/12

  • 小沢 和彦(おざわ かずひこ)

    慶應義塾大学商学部准教授
    専門分野/経営学

私は慶應義塾大学において経営学の授業を担当しています。経営学は企業などを対象とする学問ですが、企業のみならず大学や病院、NPOなど幅広い組織も分析対象に含まれます。経営学の中でも経営戦略論や経営組織論が私の専門になりますが、これらの分野の中でも「組織変革や戦略的転換及び組織慣性」について理論研究と実証研究(定量研究及び定性研究)を行っています。

さて、私が大学院生の頃に、「研究を行う際には良いお手本を探すように」という指導を受けました。学部生や大学院生にとって、学術論文を執筆することは容易でないため、お手本を参考にして研究を進めるとよいというアドバイスになります。

お手本を探すことは、とくに新しいことにチャレンジする際に有用であり、おそらく研究にかぎらず、他のことにも通じると感じています。例えば、これまでと異なる組織に所属する場合には、どのように振る舞えばよいかも曖昧であるため、お手本を探すことは有意義です。この場合のお手本の候補としては同僚などが考えられます。可能であれば複数の良いお手本を見つけることで、それぞれのいいとこ取りができるかもしれません。

経営学分野では、おおまかにいえば3つのタイプの研究があると言われていますが、私はそれぞれのタイプに応じて、自分の研究のお手本となる論文を探していた時期がありました。3つのタイプの1つ目は定量研究です。定量研究では、アンケート調査によって収集したデータや2次データを統計的な手法を用いて分析する形が多く見られます。2つ目は定性研究です。多くの場合は単一もしくは複数の事例を対象として、インタビュー調査や参与観察などが行われます。3つ目は理論研究です。理論研究は定性研究や定量研究と異なり、2次データやインタビューのデータなどを用いる必要はありません。このタイプにはさらにいくつかのケースがあり、新しい理論を展開したりする研究などが見られます。

お手本を探す際には、可能なかぎり「良いお手本」を探すのが重要になりますが、何をお手本とすべきかは学部生や大学院生にとって判断が難しいと思います。そのため、大学においては教員や先輩研究者のアドバイスが重要となります。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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