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【Researcher's Eye】
三田妃路佳:インタビュー調査と生の声

2023/05/11

  • 三田 妃路佳(みた ひろか)

    宇都宮大学地域デザイン科学部准教授・塾員
    専門分野/政治学・行政学

公共政策や地方自治の基盤となる政治学の研究方法として、定量的研究と定性的研究とがある。定性的研究への批判として、扱っている事例の数が少ない、個々の事例の詳細からは一般化をしにくいというものがある。たしかにもっともなことであるので、それを否定するつもりはない。しかし、定性的研究だからこそ得られることもあると考えている。

定性的研究と定量的研究の違いの1つに、対象とする事例の数(Nの数)がある。定性的研究は、おもに事例過程分析によって少数事例や1つの事例に関する推論を立てる。事例(結果)を考え、その原因へさかのぼる。これに対し定量的研究は、おもに多数の事例を対象に、母集団に関する推論を統計分析で行い、原因と思われるものが結果にどのような影響を与えたのかを示す。また定性的研究では、事例に関する過程に焦点を当て、場合によっては時系列での変化を比較し、因果関係を推論する。定量的研究では同時点の事例を幅広く比較し、因果関係を推論することが多いという違いもある。

つまり、定性的研究の強みは、現象が起こった経年的な過程を明らかにしたい場合や、その現象があまり起こっていないが重要な事例であり、なぜ起こったのかを明らかにしたい場合、利害関係者(アクター)の関わりの変化と現象との関係を知りたい場合などにあると考える。

例えば、地方の道路整備にも使われていた道路特定財源の廃止による一般財源化の要因について、決定した内閣を取り巻くアクターと制度の変化から比較するといった場合がある。また、少数の先行自治体における公共事業改革や地域公共交通改革の過程や、景観条例の制定や景観を阻害する決定がなされた過程について、要因を分析する場合等もある。こういった事例では、関係するアクターへのインタビュー調査等で、経緯や自治体組織構造やアクター間の関係について情報を取得することで、決定がなされた要因を炙り出すことになる。

インタビュー調査を用いた定性的研究では、扱う事例数は少ないが、その分、各々の事例対象の中身を丁寧に調査し、数字では分からない事柄の過程やアクターの動機などを明確にすることができる。関係者との出会いから得られる生の声、決定過程に至るせめぎ合いを事例分析の中に反映することができるという利点もあると考えている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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