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【Researcher's Eye】
市橋翔太:回答力

2023/04/18

  • 市橋 翔太(いちはし しょうた)

    クィーンズ大学経済学部助教・塾員
    専門分野/ミクロ経済学・ゲーム理論

私は2018年に米国で経済学のPh.Dを取得したのち、今はカナダのクィーンズ大学でミクロ経済学やゲーム理論を研究している。研究生活では、講義や論文発表など質問に答える機会が多い。私は質問するのもされるのも苦手で、最近まで論文のプレゼン中も質問がこないことを祈っていた。ただ最近ようやく質問に回答するコツをつかんだ気がするのでみなさんにシェアしたい。

1つ目は質問者が話し終わるまで口をはさまないこと。質問途中で内容を勝手に推測して答えるのは最悪である。ドンピシャで準備していた回答があっても、相手が言い終わるまでぐっとこらえる。私も用意していた回答を言いたくなる誘惑にかられることがあるが、唇を噛み締めて口をはさまないようにしている。

2つ目はわからなかったら聞き返す勇気。これは英語では必ず起こる。最近参加した学会でも、スター研究者が“say that again?” と3回も聞き返していた。聞き返せば相手も“I guess what I’m asking is…” といって質問をわかりやすく言い換えてくれるかもしれない。またこちらが質問を理解しようとしていることに気を悪くする人はいない。

3つ目は聞かれていないことに「も」答えること。試験で聞かれたことだけ答えるように鍛えられた身からすると意外だが、プレゼンがうまい人は大体やっているように思う。例えば論文に関して、こういうケースは分析したかと聞かれた場合、「考えたことがなかったので後でやってみます、ありがとう」でもいいのだが、それに続けて「ただそれとは少し違いますがこういう拡張をやっていて……」と、質問とはあまり関係ないが面白いと思ってもらえそうな拡張の話をする。聴衆は論文を理解したい味方なので、元の質問に答えているかぎり論文への理解が深まるような情報を提供して損することはない。また私はこれをやりましたというポジティブな回答の終わり方なので、提案された分析をやっていなかったというあまり嬉しくないイメージが薄まる。

先日も論文を発表した際、質問を早合点しないよう完全に理解したと思えるまで聞き返して、答えたあとは念押しで“Does this answer your question?”と質問者に聞いた。返ってきた答えは“No” であった。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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