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【Researcher's Eye】
陳敦雅:私たちはなぜコミュニケーションをとるのか?

2023/03/27

  • 陳 敦雅(チン ドンヤ)

    慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科専任講師
    専門分野/グローバルブランド管理、統合型マーケティングコミュニケーション

テクノロジーの進化など、私たちを取り巻く状況の変化にともない、コミュニケーションのために利用可能なメディアは飛躍的に増加し、選択肢も豊富になりました。ユーザーが自ら生成するコンテンツが普及した今、それらが何のためのコミュニケーションなのかを考える必要があります。

コミュニケーションは、人々が情報、経験、思考、ニーズを表現し、交流するための土台となります。そして人々の創作意欲を向上させ、視野を広げることにも寄与します。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科では、学生によるさまざまな社会実装型プロジェクトが行われており、その中でコミュニケーションは多様なアクターが意見交換するプラットフォームとして機能しています。例えば、アップサイクル活動を通して中小企業と学生をつなぐ「Cycle project」、企業のインクルーシブエージェントに関して議論し新たな社会的価値を創造する「Inclusive employment projects」、日本の高校生のグローバルコンピテンスの獲得を目指す「Global workshop」などのプロジェクトがあります。各プロジェクトにおいて、コミュニケーションという行為を通して新たな交流が生まれ、互いが刺激を受け、理解し、より良い方向に向かうことができています。

人間である私たちは、それぞれがつながるためにコミュニケーションをとります。このつながりが関係を築き、コミュニティを形成し、分野を超えたコラボレーションを実現させ、イノベーションの可能性が広がります。とくに、環境負荷や社会的包摂の概念、国際的な能力を備えた若者の重要性など、世界共通の課題ではこの傾向が強く現れると思います。同じ考えを持つ人々がコミュニケーションを通じてつながることで、課題を探求し、解決するためのコミュニティが形成されていくのです。

コミュニケーションという言葉は抽象的な概念に思えるかもしれませんが、これは誰もが生まれながらにして持つ能力です。赤ちゃんの泣き声から社会的な認知向上のための大規模なキャンペーンまで、コミュニケーションは私たちの周りにつねに存在しています。メディアの世界が複雑化した昨今では熟考を要する分野でもあり、すべての産業において不可欠なものとなっています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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