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【Researcher's Eye】
堀里子:ソーシャルメディアの患者の声を医療に生かす

2023/03/20

  • 堀 里子(ほり さとこ)

    慶應義塾大学薬学部教授
    専門分野/医療薬学・医薬品情報学

近年、薬物治療の最適化のためのエビデンスが蓄積され、患者個々に合わせた薬物治療の実施が可能になっている。そのような中、治療の最適化を実現する上では、患者自身が積極的に治療に参加し、その決定に沿って治療を受けること(この概念をアドヒアランスと呼ぶ)が不可欠であり、医療者は患者の症状・副作用、治療上の悩み・ニーズを的確に捉えて対処していくことが重要である。しかし、患者はこれらの情報の多くを、医療者に伝えていないことがわかっている。医療コミュニケーションの不足や患者から医療者への発信に対するバリアは、治療の最適化を阻む大きな課題である。

こういった課題解決のために、健康・医療について学び、対話できるサードプレイスとして「ペイシェントサロン」を立ち上げ、11年前から毎月開催してきた。医療者と患者という医療現場での関係性を外して、患者の思いを知りたいと考える医療者も多く、今では両者が集い、互いの視点を知りフラットに対話する場となっている。

患者がインターネット上のソーシャルメディア(ブログ、SNS、YouTube等)で疾病体験について発信する機会が増えている。これらの情報源には、病気や治療に対する思いや生活上の困りごとがありのままに語られている。そのため、患者はソーシャルメディアも医療情報の入手先としているが、膨大な情報の中から自身が必要とする情報を見つけ出すことは困難である。そこで、私たちのラボでは患者自身が発信する膨大なテキストの中から、医療的かつ患者にとって価値ある知見を見つけ出すモデルを開発し、活用することを目指してきた。具体的には、自然言語処理により患者がソーシャルメディア等で発信したテキストから、薬の副作用や治療上の悩み、QOLや実践知の情報を抽出するモデルの構築を進めている。

さらに、定期的に患者団体とラボの学生間で交流・ディスカッションを行い、患者視点でのフィードバックを得ながら、このモデルを活かし、患者が早期に適切な医療やソーシャルサポートにつながりやすくする方法を模索している。治療の最適化をさらに一歩進める上では、患者のアドヒアランス向上と患者視点を取り入れた服薬支援の新たなデザインの立案が望まれるだろう。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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