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【Researcher's Eye】
大坂和可子:情報と価値観の共有

2023/03/13

  • 大坂 和可子(おおさか わかこ)

    慶應義塾大学看護医療学部准教授
    専門分野/成人看護学、がん看護学

私たちの生活は、意思決定の連続である。この3年間は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、信濃町キャンパスの行動制限緩和後も、会議を対面で行うかオンラインで行うか、旅行に行くか行かないかなど選択に迷うことが多々あった。

医療においても、どの治療方法を受けるか、ある治療(または検査)を受けるか受けないか選択に迷うことがある。どれを選んでもメリットとデメリットがあり、不確実性を伴い、生活や人生に影響する選択はとくに難しく、医師・医療者も患者とともに決めたいと考える。私が研究活動で出会った乳がん患者は「病気になってから意思決定の連続。1つ扉を開けば、また次の扉が現れる」と教えてくれた。

私は、医療に関する難しい意思決定に直面する患者の意思決定の質を向上したいと考え、支援ツールである意思決定ガイドの開発や提供の効果に関する研究に取り組んでいる。意思決定ガイドは医師・医療者の持つ正しい医療情報と、患者の持つ価値観を共有し、話し合い、決定するプロセスを促すのがねらいである。開発過程では、多くの患者が「自分も前の患者の恩恵を受けている。次の患者がよりよい医療を受けられるように」と協力してくれた。

欧米では、意思決定ガイドをDecision aidと呼ぶ。研究者らが国際的な組織International Patient Decision Aid Standards(IPDAS)Collaboration を立ち上げ、意思決定ガイドの質を保証するための国際基準を整備している。国際基準は先行研究を踏まえ緻密に検討され、情報バイアスを減らすための項目をいくつも設けている。裏を返せば、ある方法を選ぶように意図的に情報を示すことも簡単にできてしまうということだ。どれが最善かの判断が患者によって異なるため、中立の立場で作成することと、エンドユーザーである患者と医療者に参加してもらい作成することが重視されている。

患者と医療者が一緒に決めるプロセスを歩むシェアードディシジョンメイキング(協働意思決定)がますます重視されるなか、意思決定ガイドは、患者が自分らしく主体的に医療に参加する上で重要な役割を担うと考えている。この分野の研究の前進においても、市民、患者、医療者、研究者が、対等なパートナーとして互いにもつ情報や価値観を共有し、ともに学びながら取り組むことが大切だと考えている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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