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【Researcher's Eye】
白坂成功:「考え方を考える」力

2022/11/29

  • 白坂 成功(しらさか せいこう)

    慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
    専門分野/新価値創造の方法論構築

VUCAという言葉を知っているだろうか? VUCAとは、Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をとってできた言葉だ。今はVUCAの時代と呼ばれ、先の予測ができず、計画通りにならない時代であると言われている。つまり、以前うまくいった考え方が、今は通用しない。あるいは、近い将来には通用しなくなる。その速度がとても早くなってしまった。これまでは、うまくいく考え方を学び、それを繰り返せばよかった。これからは、考え方を学んでも、すぐにそれが通用しなくなる。さらに、人生100年時代と言われるように、寿命が延びてきた。大学卒業年齢が22歳とすると、大学を卒業してから40年間近く働き、さらに40年間生きる。このような時代に身に付けないといけないのは、より長く有効な「考え方を考える力」である。

「考え方を考える」ためには、大きく二つの異なる能力が必要となる。一つは、「目指すべきゴールを決める力」である。これは、「問いを立てる力」とも言える。もう一つは、そのゴールを「どのように実現するかをデザインする力」である。これら二つの力は、まったく異なる分野として扱われている。しかしながら、現在のように環境や技術の変化が早いVUCAな時代では、どのような技術をどのように使うことが可能であるかを知らなければ目指すべきゴールの設定もできず、その実現可能性も判断がつかない。つまり、これまでは異なる二つの分野であったものを統合的に扱うことが必要になっている。さらに、現状も置かれている環境もまったく異なるため、ゴールに向かう道筋もまったく異なってくる。だからこそ「考え方を考える」ことが必要なのである。

例えば、「新しいヘルスケアサービスのアイデアを出す」といった単純なものであっても、最初にブレインストーミングをするか、フィールドワークにいくか、インターネットで既存のものを検索するか、どれからスタートすればいいかを決めるための考え方を持っている人は少ない。しかし、こういったことは学び、身に付けることが可能である。

これからの時代のため、より多くの人が、「考え方を考える」力を身に付けられるように、今後も研究と教育の実践を進めていきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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