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【Researcher's Eye】
加藤一誠:空港間の競争と訪日旅客

2022/11/11

  • 加藤 一誠(かとう かずせい)

    慶應義塾大学商学部教授
    専門分野/交通経済・交通政策

コロナ前、訪日旅客で沸いていた。そもそも、なぜ、わが国に多くの外国人がやってきたのだろうか? まず、観光地が多く、清潔でサービスの質が高く、しかも、物価が安い、というのが理由であろう。何よりも、アジア諸国が豊かになったことが大きい。所得が伸びて旅行に出かける人が増えた。

コロナ前の特徴に、国際線の増えた羽田は別として、地方空港における入国者の増加がある。成田空港がシェアを落とした分、関西、那覇などの首都圏以外の空港のシェアが伸びた。そして、訪日旅客のうちおよそ8割は海外航空会社が担い、ANAやJALなど本邦航空会社のシェアは2割弱にすぎなかったのも特徴である。

誘致の現場はもう少し生臭い。背後には、県や空港関係者の「努力」がある。誘致関係者は海外の商談会に行き、自県を海外の旅行会社や航空会社に売り込む。商談会のあと、個別に交渉し、「インセンティブ」と呼ばれる誘致条件を話し合う。内容は定期便とチャーター便では異なるが、宿泊補助、着陸料をはじめとする空港使用料の割引から、旅行造成支援、空港バスの運行支援などさまざまである。海外旅行会社や外国航空会社は「つわもの」で、各県と個別に交渉し、有利な条件を引き出す。

商談が成立すると、空港に訪日客が押し寄せる。しかし、インセンティブを止めると、訪日客は消えた。金の切れ目が縁の切れ目である。しかも、インセンティブの値上がりも激しかった。県が協力して交渉すればよいのだが、県間協力は言うは易し行うは難し、なのである。

そもそも、私がなぜ、このようなことに関心を持っているのか。交通インフラは維持管理しながら、賢く使うことが求められている。それに関連し、いま、グループで研究を進めているのが「近隣効果」の分析である。大規模空港を除いたインセンティブ競争は分析でも再現され、地方の近隣空港同士が競争していることがわかっている。

インセンティブは海外へのお金の移転であり、その段階では雇用は生まない。旅客は確実に消費で金を落とし、その金額ゆえ、この政策が是認されるが、長期的視点も政策の比較も不十分である。協力ゲームにするためのしくみづくりに動く地域もあると聞く。その動きに期待している。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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