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【Researcher's Eye】
東林修平:2年半を振り返って

2022/09/12

  • 東林 修平(ひがしばやし しゅうへい )

    慶應義塾大学薬学部准教授
    専門分野/ 有機化学

本稿執筆時の7月上旬、COVID-19による第7波が懸念されているが、再拡大が本格化する前に、やや落ち着いた面もあったこの春までの2年半ほどを少し振り返りたい。

薬学部に赴任して3年が経過し、ようやくある程度慣れ一息ついたところで、COVID-19の流行が始まり、現場での新たな対応に追われた。まず直面したのが4月の有機化学実習の実施であった。化学実験の技能、経験を修得する実習は、配信で在宅学習というわけにはいかないと考え、緊急事態宣言の影響で何度も延期されたものの、内容とスケジュールを何度も組み直し、感染対策を十分に行い、何とか大学で実施した。キャンパスで学べる機会が極めて限られた中、楽しげだった学生の表情が印象に残っている。

最も危惧したのは、大学院生たちの課題研究への影響であった。筆者が専門とする有機化学の研究では、実験室で化合物を合成する何百という実験が欠かせず、実験の数は成果の量に直結する。しかし、キャンパス閉鎖、登校人数の制限のため、実験も大きく制限された。環境の違いから、ほぼ例年どおりの研究活動が行えていた他大学もあり、経験、成果に差が出ると将来に悪影響を及ぼすのではないかと心配し、1年休学することを勧めるべきかとも一時は考えた。しかし、限られた時間の中で最大限の実験を行い、平日に登校できない代わりに日曜、祝日に実験するなど、大学院生たちの努力で何とか乗り切れ、ほっとしている。

2020年度の担当講義は完全に配信となったが、希望する学生にはキャンパスで受講させてあげたいとの思いから、2021年度は配信と対面のどちらでも講義を受けられるようにした。200人弱の履修者のうち、対面で受講したのは30人程度であったが、対面講義をしてくれて良かったと授業アンケートに書かれているのを見た時は、正解だったなと1人、悦に入った。COVID-19流行以前は、大人数でやや私語も多かったのだが、少人数かつ希望者だけであったことから、この時は私語をする者は1人もいなかった。今年度は対面のみとしたことから、200人弱の大人数に戻り、また私語が増えるなあと思っていたのだが、いざ講義を始めると、皆、静かに真面目に講義を受けている。学生たちの意欲を侮った浅はかな予想だったと少し反省した。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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