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【Researcher's Eye】
高橋悠也:テックカンパニーに影響を与える経済学者たち

2022/08/15

  • 高橋 悠也(たかはし ゆうや)

    ワシントン大学シアトル校経済学部助教・塾員
    専門分野/実証的産業組織論

私はassistant professor としてワシントン大学シアトル校に勤めているが、シアトルには多くのテックカンパニーがあって、その影響が大きく出ている街である。

その影響は大きく分けて2つ考えられる。1つ目は学部生、大学院生にとって卒業後にこれらのテックカンパニーで働くことが非常に重要な選択肢になっていることである。私が教えた学生のうち、Ph.D 取得後にアマゾンに就職した学生が2人、フェイスブックに就職した学生が1人いる。

これらのテックカンパニーが雇うのはワシントン大学の卒業生だけにとどまらない。上記2社をはじめ、マイクロソフトやウーバーなどでも、経済学、統計学、computer science、operation’s research などの分野のPh.D、Masterなどを取得した人々が働いている。

影響のもう1つの経路は、現在進行形で経済学部のファカルティをやっている経済学者がパートタイムでこれらのテックカンパニーに出入りすることである。有名な例はアマゾンのチーフエコノミストとして活躍していたPat Bajari 氏が最近までワシントン大学シアトル校経済学部の教授を務めていたことだ。それ以外にも、Bajari 氏の共著者や友人などが世界中からアマゾンに短期滞在をしに来るのである。

彼らは自らの研究分野の専門知識を活かしてアマゾンの経営戦略に関するアドバイスをする。

上述したシアトルのテックカンパニーで働く経済学者の話をもう少し掘り下げたい。現在、ウーバーにいる友人によれば、今アマゾンから人がどんどん抜けている。その経済学者(統計学者、コンピューターサイエンティストなども)らはウェイフェア、マイクロソフト、ウーバーなどに移り仕事をしているようだ。逆に、Amit Gandhi 氏のように、マイクロソフトからペンシルバニア大学の経済学部に移る流れもある。

最後に、Ph.D 取得後にアマゾンで働き始めた私の元学生から聞いた話をしよう。同社には3つのエコノミストチームがあって(causal inference, IO (structural analysis), time series)、それ以外にもdata scientist、software engineer などの人々もチームに入って一緒に働いているそうだ。

つまり、経済学者がさまざまなレベルでこの業界で活躍している。この流れは今後もしばらくは続くのではないか。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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