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【Researcher's Eye】
金子恵美子:成長を支える他者との関わり

2022/06/28

  • 金子 恵美子(かねこ えみこ)

    慶應義塾大学教職課程センター准教授
    専門分野/教育臨床心理学

この2年間は新型コロナウイルス感染拡大防止のためにさまざまな活動が制限され、学校での教育活動にも変化が生じることになりました。大学でもオンライン授業が行われ、オンライン授業と対面授業それぞれの良さを考える機会にもなりましたが、いずれの授業でも「他者との関わり」をつくることが重要であることを再認識することになりました。

私は、学校における課題の中でもとくに不登校に関心を持っています。不登校の状態にある子どもは近年増加を続けており、文部科学省によると令和2年度には小中学校で約19万6千人という状況です。平成28年には「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」が成立し、1人1人の実情をふまえた支援がさらに進められることになりました。教育支援センターやフリースクール、不登校特例校など不登校の子どもたちが学ぶ場の充実が図られ、高校についても全日制だけでなく、多様なタイプの定時制、通信制高校などから進学先が選択されています。

ある通信制高校で調査したところ、不登校について振り返ったときにその経験をネガティブに捉える生徒がいる一方で、「自分のことを見直すことができた」「その経験があったからこそ、今の自分がいる」「不登校にならなければ気づかなかったこともたくさんある」とその経験に意味を見出し、自分が変わったと感じている生徒も少なくありませんでした。不登校だった期間は辛かったという生徒を支えたものとして、「見守ってくれた」「理解しようとしてくれた」「楽しいことを共有してくれた」「時に厳しいことも言ってくれた」家族、学校の先生、学外機関の職員の関わりが生徒からあげられています。丁寧に話を聞いてくれ、そばにいてくれて、どうしたらよいかを一緒に考えてくれた周囲の人の関わりが支えになり、その後の成長や変化につながっていったことを感じます。

文部科学省によると、不登校の子どものうち専門的な指導・相談を受けていない割合は約3割にのぼり、十分な支援を受けられていない子どもも多いことが推測されます。学校や学外機関が子どもにとって安心してさまざまなことを経験できる場になるための支援について今後も考えていきたいと思っています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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