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【Researcher's Eye】
長谷川福造:法の森の中での気づき

2022/05/30

  • 長谷川 福造(はせがわ ふくぞう)

    慶應義塾大学総合政策学部専任講師
    専門分野/ 行政法・公法学

現在、我が国で有効な法律は2千余りを数えます(e-Gov法令検索の登録数は2,078)。しかし、その中に「行政法」という名前の法律はありません。「憲法」「民法」「刑法」といった他の法分野とは異なる特徴といってもよいでしょう。私たちが普段利用する自宅や学校の建物は、建築基準法や都市計画法の規律に沿って建築されていますし、仕事や趣味での移動に利用するインフラや公共交通機関には、道路交通法などさまざまな法律が関係します。

行政法学の役割の一つに、森のように複雑につながり合った行政に関する規律群を法的観点から体系的に考察することが挙げられます。そのため、研究を進めていく際に、解釈論だけでなく立法論や政策論と関わる場面が比較的多くなります。このことは、ドイツにおける行政法の代表的な学術雑誌「Die Verwaltung」が、行政法学と行政学の両方を対象としていることからも窺えます。

2019年の春から夏にかけて、日本の行政法の理論的淵源であるドイツに客員研究員として滞在しました。この時に現地の教授や研究員と議論したことを、今も思い出します。ちょうど平成から令和への節目の年だったこともあり、日本の法制度や歴史に対する関心が高かったのが印象的でした。

「日本という地球の反対側の遠く離れた国で、ヨーロッパで生まれた民主的な法制度がここまで発展したのはなぜでしょうか?」。ドイツ人の若手研究員の1人にこう問われたことをよく覚えています。律令制度以来の法的システムの存在や、幕末から明治期の先人たちの熱意と行動の賜物であることを、自分なりに(必ずしも精密ではなかったかもしれませんが)説明しました。この問いかけは、法を研究する上で大切な何かを気づかせてくれたように思います。

文献や資料の調査と並行して、この2年間、遠方の地方自治体の公務員や大学の研究者たちとリモートで質疑する機会が増えています。オンライン会議の普及という時の流れは、対話の拡充を生み出しました。その一方で、対面の大切さも再発見した気がします。小林秀雄氏の随筆「考へるといふ事」の中に「未来とは願望し撰択する事」という一節があります。変革期の貴重な経験を活かして、次世代の役に立つ行政法の仕組みと理論が花開くことを念願しています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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