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【Researcher's Eye】
星野崇宏:学知を民主化できる時代

2022/05/12

  • 星野 崇宏(ほしの たかひろ)

    慶應義塾大学経済学部教授
    専門分野/計量経済学・行動経済学

じつはここだけの話、私はコロナ禍の運動不足でかなり太ってしまったダメ人間です。2020年末の人間ドックでは脂肪肝という有り難くない判定までいただいたため、2021年の年始には、今年はダイエットの年にするぞと誓いました。

では何をしたらよいのか? ネットには特定の商材を購入させるためのアフィリエイト記事が、健康関連の書籍や雑誌記事にも食事や運動法に関して互いに矛盾する情報が溢れています。プリンシパルエージェント問題といって、株主と経営陣、政治家と官僚など、依頼人(プリンシパル)が実行者(エージェント)に仕事を依頼する場合、実行者は依頼人の利益より自分の利益を重視することがしばしば問題になります。自力で正しい知識を探すのを諦めて情報に受け身になると、広告収入を得たい、自説を主張して注目を浴びたいという動機を持ったブロガーや著者の思うつぼです。

しかし、今や自力で学知をある程度調べられる時代です。減量関係の話題であればスポーツ科学・栄養学・健康科学の分野で膨大な研究があり、複数研究での結果を統合した「メタ分析」もあります。オープンサイエンスの流れもあり無料で読める論文も多いです。またメタ分析レベルの英語であれば各種翻訳サイトが自然に翻訳してくれます。私も無理なく効果的と思われる運動法と食事法を学知から見つけ実践した結果、昨年末には健康的に12キロの減量に成功しました。

さて、私はいくつかの省庁でエビデンスに基づく政策決定の企画や研修のお手伝いをしています。近年各国で政策効果の知見が蓄積されており、例えば企業補助金の効果なら「どの国のどの業種、企業規模を対象にしたどの種の補助金の効果が大きいか」を示すメタ分析の論文などもあり、官僚の方々にはこういった情報が簡単にアクセスできることを啓蒙しています。このような学知が容易にアクセスできることで、利害関係者が大きな声を出したから政策が決まり、その効果も評価できない、という時代から、政策選択肢を選ぶ段階から各種の学知が動員される時代になると良いですね。

え? 私がどんなダイエットをしたか? 私はその分野の専門家ではないのでノーコメント、なによりご自分で調べることで学知をオープンに活用する時代の息吹を感じてください!

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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